229号(2016年04月)6ページ
動物病院だより 『ペペ』
動物病院だより『ペペ』
今回はシシオザルのオスのペペのお話です。ペペは1990年にメスのチュリナとともにカナダの動物園から当園にやって来ました。ペペとチュリナは仲の良い夫婦で、多くの子供たちを育て、子供たちは全国の動物園に旅立っていきました。そしてペペは長い間、家族をまとめてきました。そんなペペに異変があったのは2011年の12月のことでした。展示場でペペの肛門から腸が出てきてしまいました。このような状態を脱腸と言います。とび出した腸が乾いて駄目になってはいけないので、捕まえて、麻酔をかけました。体を調べてみると、肛門からの脱腸だけではなく、お腹の筋肉にも腸が出てしまうような裂け目があることが分かりました。手術して、それぞれ腸が出ないようにして、そのまま入院することになりました。その後、傷の状態が悪くなったり、脱腸が再発したりで、ペペと家族が同居を再開するのは翌年の一月終わり頃で、家族と離れてから二ヶ月近く経過してしまいました。その間に家族の中では新たな力関係が出来始めてしまいました。ペペと家族の同居を始めましたが、息子の力が強くなり、小競り合いが起こり、緊張状態が続きました。二週間も経つとペペがやや孤立気味で力関係は息子と逆転していながらも、関係は落ち着いているように感じられました。しかし、その年の五月下旬頃から息子とチュリナが結託してペペに向かってゆくようになり、ある日、ペペが大きな傷を負ってしまったので、動物病院に入院するとともに家族との同居も断念することになってしまいました。傷が癒えた後はバックヤードという皆さんに公開する場所ではない飼育場所に移動しました。群で暮らすシシオザルですが、周りに気を使う必要もなくなり、気楽な一人暮らしをしているようでした。私はペペを何度も捕獲しているので、彼から嫌われていて、入院中やバックヤードでも近くを通ると威嚇され、おやつを持ってゆくと怒りながらも受け取りに来ます。ペペは1985年7月生まれなので、バックヤードで暮らす内に三〇歳を迎えました。中型のサルとしてはかなり高齢で、その間に足腰に大分衰えが目立つようになってきていました。昨冬、バックヤードで暮らし始めてから四回目の冬を迎え、十二月に入り寒さが本格的になってくると、ペペの動きが大分悪くなってきたので、暖かな動物病院に再度入院しました。
病院暮らしは慣れたもののようで、入院してすぐに餌を食べ始ました。採食良好ですが、手の震えがあったり、下痢をしたり、元気がなく寝ていることが多い日もありました。ケージの暖め方を工夫したり、薬を飲んだりで、手の震えも少なくなり、三月頃には状態も良くなってきました。私がおやつを与える時も入院時は、受け取るものの、威嚇もほとんどなく、元気がなかったのですが、段々と威嚇に力がこもるようになってきました。もう昔のような逞しい姿を見ることは不可能ですが、毎日を快適に過ごしてくれたら良いなと考えています。
動物病院係 金澤 裕司