でっきぶらし(News Paper)

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231号(2016年08月)3ページ

汝に幸あれ!

 前回230号のでっきぶらしで紹介した、アメリカからやってきたレッサーパンダのホーマーですが、無事出産しました!赤ちゃんはとても元気で、どんどん成長しています。この号が皆さんの手元に届く頃には、もうお披露目できるくらいになっているかもしれません。今回はそんなホーマーの赤ちゃんの出産秘話をお届けします。
 ホーマーは前回お話したように、アメリカで交尾をしてから日本平動物園にやってきました。来園時は妊娠の兆候などもまだ出ない時期だったので、こちらでしっかりと妊娠の様子を観察しなくてはなりません。(妊娠していないという可能性も十分あり得ました。)
 ホーマーは来園した時からよく食べる個体で、体格も大柄なので体重は6.5kgと重めでした。ここからお腹が大きくなるにつれて、体重も増えていきます。毎日与える餌はほぼ完食するので、逆に体重が増えすぎないようにするのに苦労しました。そして5月に入るとお腹の張りが目立つようになってきました。毎日、餌やりの時に体を触って体調をチェックします。一般的には、頭や背中は触らせてもお腹は嫌がる個体が多いのですが、ホーマーは人懐っこい性格なのでお腹を触っても全く嫌がりません。日毎大きくなっていくお腹を見て、これは確実に妊娠している!と思うようになりました。
 レッサーパンダは主に6月~7月に出産しますが、妊娠期間は90~150日とかなりバラつきがあるので、交尾した日から出産日を予測するのは難しいです。そのため出産の準備は早目に済ましておかなければなりません。巣箱にカメラを設置してチェックを行い、いつでも巣箱に入れるように寝室と放飼場を自由に行き来できる状態にしておきました。それにしてもホーマーのお腹が大きくなっていくのは、予想外に早いペースでした。
 出産当日の朝、ホーマーはすんなりと放飼場に出てリンゴを食べました。ここまでは普段通りです。獣舎の掃除や竹採りを終えて昼頃に戻ってみると、放飼場の床に座り込んでなかなか動きません。これはなんだかおかしいぞ!?と思いながらリンゴを与えてみますが手を付けません。やっぱりおかしい・・・。そこで寝室に戻すように誘導を試みましたが、頼みの綱のリンゴに反応してくれないのでどうすることもできませんでした。そこで獣医さんと相談して、寝室に閉じ込めようということになり、ホーマーの所へ向かったのですが、なんともう赤ちゃんが生まれていたのです!
 そっと様子を覗くと、ちょうどへその緒を噛みちぎっているところでした。通常は出産したら赤ちゃんの体を舐めて授乳を行うのですが、落ち着かないのか赤ちゃんを置いて辺りを何度もうろつき授乳する気配がありません。ホーマーは巣箱ではなく放飼場で出産してしまったので、このままでは育児放棄の可能性もあります。そこで赤ちゃんを人の手で巣箱に移すことにしました。それぞれが配置につき、ホーマーがふらっと寝室に入ってきた瞬間を狙って(もちろん相手は警戒しているので、こちらも息を潜めます)一気にシュートを締めます。そうしたら今度は(赤ちゃんに人の臭いが付かないよう手袋をして)放飼場の赤ちゃんをサッと取り上げます。次はホーマーを放飼場に出す→赤ちゃんを巣箱に入れる→ホーマーが赤ちゃんの鳴き声につられて再び寝室に入る→閉じ込め完了!という流れでした。それでもしばらくは落ち着かない様子でしたが、次第に巣箱に巣材を運び入れはじめ、巣箱が巣材で一杯になった後にやっと授乳をしてくれました。
そこからのホーマーの子育ては、文句なしの満点でした。最初の数日は付きっきりで赤ちゃんの世話をし、育児が軌道に乗ると自分の休憩もしっかり取りながら世話をするという様子で、飼育員たちは口を揃えて「完璧!」と安堵したのです。落ち着いた性格のホーマーは、思った通り良いお母さんになってくれました。ホーマーに育てられる赤ちゃんがどんな子に育つのか、とても楽しみです。皆さんも、この親子に注目してみてくださいね!
(飼育係  久保 暁)

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