でっきぶらし(News Paper)

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251号(2019年12月)6ページ

病院だより「ありがとう、ゴンちゃん。」

 今年もいよいよ終わりがみえてきました。4月から、レッサーパンダの赤ちゃん誕生やドキドキ☆アザラシ爪切り大作戦など、いろいろなことがありましたが、面白い記事を書く自信がないので、それについては各担当者にお任せしたいと思います。

 今回は私の中で今年一番記憶に残ったロバのゴンちゃんについてお話します。
ロバのゴンちゃんは、日本平動物園に1997年からいた、今年で27歳のおじいちゃんのロバさんです。ロバの寿命は25~30年といわれているので、人間でいうと80歳以上でしょうか。ふれあい動物園にいる他のウマたちと比べて大きな耳がチャームポイントの愛されキャラでした。ふれあい動物園に巡回で回っていると、やさしく体を触らせてくれて、とても癒されました。そんなゴンちゃんですが、今年のお誕生日を過ぎた後、急にうんちが出なくなってしまいました。うんちが出ないのでお腹がどんどん膨らんで、食欲もなくなっていきました。毎日、点滴をしたり、浣腸をしたり、飼育員さんに協力してもらい、ゴンちゃんにも頑張ってもらいました。首に針を刺されたり、お尻にホースをつっこまれたりするのは苦痛だったと思いますが、ゴンちゃんはよく耐えて、おとなしくしていてくれました。治療から1週間ほどで少しうんちが出て、大好きなリンゴやニンジンを食べ始めた時期もありましたが、治療開始から2週間後の7月19日に放飼場で倒れて亡くなってしまいました。

 ゴンちゃんが便秘になったころ、新米獣医の私は何もかもが初めての状態でした。そんな中、ゴンちゃんの治療に関わることで、薬の種類や使い方(動物種によっては、使ってはいけない薬もあります)、採血や点滴の仕方など、実際にやりながら勉強させてもらいました。その他にも、動物の治療に関する本を調べたり、詳しい人に聞いてみたりと、手探りしながらやったことや夕方の治療の後、明日こそはうんちが出ますようにと祈ったこと、毎朝、今日も生きているだろうか、うんちは出ただろうか、とドキドキしながらふれあい動物園に通ったこと等々、短期間で多くのことを経験させてもらいました。この経験は、その後の園内の動物たちの治療に活きています。

また、ゴンちゃんが亡くなった後も、獣医の仕事は終わりません。解剖をして死因を探したり、その結果を出張で発表することで、他の動物園の獣医さんに治療方法のアドバイスを頂いたりして、次に同じ状態になった動物を救えるように活かすのです。解剖すると、ゴンちゃんはお腹の中が今まで食べた干し草が細かくなったものでいっぱいでした。食べたものをしっかり消化してうんちにできればよかったのですが、年齢のせいか何なのか、上手く消化できず、そのままお腹の中に詰まってしまったようです。おそらく、人間ならば耐えられない気持ち悪さ、痛さがあったと思います。

こんなとき、動物は本当に強いなぁとつくづく感じます。亡くなってしまった動物を解剖してみると、肺に呼吸ができないほど膿が詰まっていたり、お腹を開くと体の中のあちらこちらに腫瘍があったり、腹水、胸水が溜まっていたり、よくこの状況で生きていたものだと驚く事ばかりです。動物にとって、野生下で周囲に弱みを見せることは死につながります。多くの動物園にいる動物は動物園生まれですが、本能として弱みは見せたくないのでしょう。だから飼育員や獣医は、日々、動物たちをよく観察して、動物たちのストレスになっているものはないか、昨日と違う動きがないか見ているのです。人間ならば、自分で痛いところ、気持ち悪いところを言ってくれますが、動物ではそうはいきません。動物と付き合っていくうえで面白くもあり、難しいところです。

今回は残念な結果になりましたが、ゴンちゃんは本当にたくさんのことを教えてくれました。ありがとう、ゴンちゃん。まだまだ未熟者ですが、あなたの教えてくれたことを活かして、今後も園内の動物たちの健康管理に努めていきたいと思います。
           
(山口 真澄)

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