でっきぶらし(News Paper)

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281号(2025年03月)3ページ

ゾウの気分

 開園から日本平動物園で暮らしているアジアゾウのダンボさん(メス、推定58歳)は、その器用な鼻を使って、お客様に水や泥を飛ばしてしまうことがあります。鼻で水や泥を飛ばしてから園路に届くまで、わずか1秒程度。その威力たるや、ゾウ舎から園路を超え、向かいにあるキリン舎外壁の最上部にまで到達するほどで、推定飛距離は最大約20mもあります。突然のことに驚かせてしまった方、水や泥をかけられてしまった方にはこの場を借りてお詫び申し上げます。

 この水・泥飛ばしですが、不思議なことに、まったく水や泥を飛ばさない日もあれば、1日に何回も飛ばしてしまう日もあります。ゾウ舎の前を通りかかっただけですぐ水・泥をかけられる方もいれば、朝から夕方までずっとゾウ舎の前にいても一度も水・泥をかけられない方もいます。また、似たような家族連れが2組連続で通っても、片方のご家族には何度も水を飛ばすのに、もう1組のご家族には見向きもしない、なんてこともあります。さらに、軽~くやんわりと水を飛ばしたかと思えば、まるで円盤投げの選手のように振り向きざまに遠心力を使って思いっきり飛ばすことも…。前者は、何か「遊ぼうよ」という感じがあり、お客様の反応を見て楽しんでいるようにも見えるのですが、後者は何か「あっち行け!」という「敵意」や「いらだち」が感じられ、ゾウの感情が飛ばし方に表れている気もします。

一体なぜ水や泥を飛ばすのか…?単なるダンボさんの気まぐれなのか、何か意味や理由があるのか…?よく飛ばす時期などがあるのか…?気になったので、2023年1月から水や泥を飛ばした日や回数を記録し、まとめています。まだ分析の途中ではありますが、少しだけ結果をお知らせします。

 2023年は1年間で合計154日、計662回も水・泥を飛ばしていました。特に、2~3月、6~7月、10~11月に回数が増える傾向があり、1日で30回も飛ばした日もありました。2024年は、1年間で合計97日、229回と、水・泥を飛ばす回数が大きく減少しましたが、2~3月、6月、11月に回数が増え、2023年と似たような傾向がみられました。2年間の調査から、水・泥飛ばしは2~3月、6~7月、10~11月に多く発生し、約4か月ごとにピークが来ていることもわかりました。

では、なぜダンボさんは水や泥を飛ばすのでしょうか?まず前提としてダンボさんが水・泥を飛ばす対象は「人」であるということです。園路に人がいなければ水や泥を飛ばすことはなく、実際休園日にはまったく水を飛ばしません(ごくまれに、工事や点検に来た業者の方などに水を飛ばすことはありますが、やはり対象は人なのです)。しかし、GWやお盆休みなど、入園者数が多い日に多く飛ばす訳でもなく、単なる入園者数だけが影響している訳でもなさそうです。

また、大勢のお客様の中でも、特定の人に対してしつこく何度も水・泥を飛ばすことがあることから、ダンボさんはちゃんと一人ひとりのお客様を見分け、水や泥を飛ばしている可能性があります。ゾウは視力はあまり良くなく、鼻(嗅覚)や耳(聴覚)がとても優れているため、お客様を「におい」や「音・声」などで識別し、気になった人、あるいは気に入らない人に対して水・泥飛ばしを行っているのかもしれません。

一方、ゾウの生理状態から考えると、メスのゾウの発情周期は13~18週間とされており、水・泥飛ばしが多発する周期と似ています。推定58歳のダンボさんに定期的な発情が今も続いているとは考えにくいですが、体内のホルモン分泌量などの変動が、行動に影響を与えている可能性もあります。その他、周辺の騒音や担当飼育員の交代など、外的な要因が原因となっている可能性も考えられます。引き続き、どのような状況で、どのようなお客様に対してよく水や泥を飛ばすのか、分析を続けようと思います。

ちなみに、ダンボさんがお客様側を向き、下におろした鼻を前後にゆらゆら振る行動をしている時は、すでに鼻に水や泥を持っていていつでも飛ばす準備が出来ている状態です。その後すぐ水や泥を飛ばしてくる可能性が高いのですぐに逃げてくださいね。また、前肢を持ち上げ「バンッ!」と地面を踏み鳴らした時は、ダンボさんがイラついている場合が多く、お客様を追い払うように水や泥をしつこく飛ばしてくる可能性があります。ダンボさんが前肢を踏み鳴らしている時は、いち早くゾウ舎から離れることをお勧めします。

 そんなダンボさんは2026年に推定60歳を迎えます。人間でいうと還暦をお祝いする年です。動物の60歳をお祝い出来る機会は大変珍しく、動物園スタッフとして立ち会えるのはとても貴重な瞬間です。例年以上に、盛大にお祝いが出来たら…と考えていますので、お楽しみに。

(横山)

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