でっきぶらし(News Paper)

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218号(2014年06月)6ページ

病院だより「ダチョウさん、リハビリですよー」

 当園では現在ダチョウをオス、メスの夫婦の二羽で飼育しています。二羽とも名前はありません。それぞれオス、メスと呼んでいます。全身の羽毛が黒いのがオスで、灰色がメスです。
 それは三月の中頃のことでした。ダチョウのメスがどうも元気がない日が何日か続いた後に放飼場で立ち上がることが出来なくなってしまいました。三月はまだまだ冷え込むので、まずは獣舎の中に入れてやりたいと思いましたが、ダチョウ舎は中で区切られていません。調子の悪いメスの邪魔をオスにされては良くないと思い、オスには一日中外で我慢して貰うことにして、メスを獣舎内に収容することにしました。ちなみに元気なダチョウならば静岡の気候でも、三月に一日中外にいても平気です。とりあえず何本か注射をして、オスが向かってこないように見張りながら、何人かでメスを獣舎の中に運びました。そして保温灯やヒーター、湯たんぽなどを用意して、暖かくして様子を見ることにしました。しかし、一向に元気が出る様子がなく、首を持ち上げるのも辛い様に感じたので、点滴を入れることにしました。一日に2.5リットル程です。時々気を失うように首を床に付けてしまうことがあり、かなり厳しい状況と思っていましたが、点滴を始めて三日目に眼に力が少し戻ってきて、こちらの手を差し出すとつつくようになってきました。ここでお腹の中に少しでも食べ物を入れてあげようと思い、小松菜に薬を混ぜて少量の水を加えてミキサーで混ぜて特製の青汁ジュースを作って飲ませることにしました。ただ、「このジュース飲んで」と言っても飲んでくれるわけではありません。強制給餌と言って抑えつけて餌を与える方法で、喉の奥までチューブを入れて注射器で流し込んで飲んでもらうことにしました。ダチョウの首は長いので使えるチューブがないか動物病院を探し回ったところ、丁度良い太さの長いチューブが見つかりました。道具は見つかったので、特製ジュースは担当者が愛情を込めて作ってくれました。抑えつけて飲ますと言っても、くねくね動かす長い首を抑えたり、チューブにジュースを流し込むために人手が必要で、数人がかりの作業となりました。この特製ジュースを一日何回か無理やり飲ませているうちに段々と体に力が戻ってきました。立てなくなってから十日ほど経ったころ、自分で立ち上がろうとしますが、ずっと座ったきりだったので無理なようです。長い間筋肉を使わないでいると麻痺して立てなくなってしまうので、リハビリをしなければならないのですが、人間のように「頑張ってリハビリやって!」と言ってもその意味は解りませんし、無理やり行うのも体にも大きな負担がかかります。それでもこのままでは、自分で立ち上がれるようになるとは思えなかったので、床に足が少し着くくらいに、体を天井から吊り下げられるように、消防用ホースと麻袋を使ってハンモックを作りました。吊り上げるのはチェーンブロックという道具で持ち上げますが、ハンモックに乗って貰うにはダチョウを持ち上げなければなりません。ダチョウは世界最大の鳥ですから個体によっては体重百キログラムを超えます。そこで飼育担当者、動物病院のスタッフ数人で持ち上げてハンモックに乗って貰いました。最初のリハビリは1時間ほど行いました。時折足に力を入れてみるもののすぐに力が抜けてしまい、「ブラブラ」とぶら下がっている時間が殆どで、最後は疲れてしまったようで、首を下に下げてしまいました。リハビリが終わったら、また数人がかりでハンモックから降ろします。様子を見ながら、毎日リハビリを続けてゆくと、徐々に足に力が入ることが多くなってきました。そして、リハビリを始めてから二週間近くたったころ自力で立ち上がり、歩きました。まだよたよたと数歩歩いただけですが大きな進歩です。その後、少しずつ立ち上がる時間が長くなってきたので、吊り下げるリハビリは終了です。餌もかなり自分で食べるようになり、小松菜を差し出すと元気に食べるようになってきたので強制給餌も終了としました。立ち上がれなくなり、座り込んで首を伸ばして、床に付けてしまった時は、正直もうだめかと思いました。しかし、ダチョウさんは頑張りました。つらいリハビリに耐えてくれたのです。担当者、動物病院のスタッフの思いが通じてくれたのかもしれません。立ち上がることが出来るようになったとは言え、上手く足を出せない日々が続き、歩けるようになってくると、まっすぐは歩けるけど、上手く方向転換が出来ない状態が続きました。ある時ダチョウ舎を覗くと自分の進む方向を変えられずに、壁に向かって、立ちすくんでいることがあり、方向転換の手助けをしたこともありました。それも、日を追って、方向転換も、餌につられて何とか出来るようになってきたので、様子を見ながら外に出てもらおうと思っています。この「でっきぶらし」が出る頃には、皆さんも元気に歩くダチョウのメスが見ることができるのでないかと期待しています。 

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