でっきぶらし(News Paper)

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220号(2014年10月)8ページ

スポットガイドだより No1

《7月20日 ライオン》

 梅雨明けが待ち遠しい7月20日、ライオンのスポットガイドが行われました。ライオンと言えば「百獣の王」として知られていますが、実はね…という話が担当者からされました。いったい人類はいつ頃からライオンに対して王というイメージを持ち始めたのでしょうか?その起源を簡単にさかのぼってみましょう。
 ドイツの詩人、ゲーテの叙事詩「ライネケ狐」(1793年)には、ライオンが王として登場しています。のちにA・パウル・ヴェーバーがつけた挿絵には、王冠をかぶり堂々と足を組んで座るライオンの姿が描かれており、まさに王様です。また、旧約聖書や古代ギリシャの詩人も、ライオンに対して「王」という表現を用いているとか。さらにさかのぼると、エジプトのスフィンクスは、ライオンの身体と人間の顔を持っています。中でも、ギザの大スフィンクスは、王の偉大さを表す神聖な存在と考えられているそうです。ギザの大スフィンクスが作られたのは古代エジプトの古王国時代(紀元前2500年頃)とされているので、約4500年以上に渡り、我々人類はライオン=王というイメージを持っているとも言えます。
 ここで地域にも注目してみましょう。エジプトやギリシャ、イスラエル(ユダヤ教やキリスト教の起こった地)などの地域は、かつてライオンが生息していたと考えられている地域です。その昔ライオンはアフリカだけでなく、地中海沿岸からインドにかけて、非常に広い範囲に生息していたと考えられています。つまり、世界四大文明と呼ばれるメソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、黄河文明のうち、黄河文明を除く3つの地域にはライオンが生息していたわけです。古代の人々がどれほどライオンと接触していたのか定かではありませんが、動物園の起源は約5000年前までさかのぼることができると言われていますので、少なくともスフィンクスが作られた頃には、飼育されているライオンを目にする機会もあったのかもしれません。大きな体に立派な鬣(たてがみ)を持ち、力強く咆哮するライオンは、身近にいる動物の中で最も「王」というイメージにふさわしく、権力の象徴として浸透しやすかったのでしょう。
 結局のところ正確な起源はわかりませんでしたが、「ライオン=王」というイメージがこれほど根強く現代まで伝承されてきたのは、その容姿だけでなく、かつて文明の発祥地に広く生息し、人々に強い印象を与えていたことも影響しているのではないかと私は思います。
 動物の研究というと、生物学や遺伝学など、理系のイメージが強いかもしれませんが、実は民俗学や宗教学などの文系分野とも深い関わりを持っています。芸術作品や童話をはじめ、国旗や軍隊のシンボルマークには多くの動物が描かれています。彼らの姿を通して、その時代に生きた人々の動物観や、国や地域による文化・思想の違いを考えてみるのも面白いかもしれません。


スポットガイド班 横山 卓志

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