222号(2015年02月)6ページ
病院だより ~どうぶつたちのおくすり~
「くすりはいやだ~!」子供が病気の時、苦労することの1つが薬を飲ませることです。たしかに薬は美味しくないし、粒や粉が飲みづらいので、子供からすると「病気でつらいのになんでこんな嫌なことをするの?」って思うことでしょう。大人になるにつれ薬の効果が解かるので抵抗感は徐々に少なくなりますが、では動物たちはどうでしょう?
動物たちが病気になったとき、たいていは自分の体力・抵抗力で病気とたたかいます。野生環境は人間の生活している環境とは違って、たくさんの生物や病原体がいます。そんな中で育っている動物たちは私達には想像できないくらい体が強いので、薬など必要とせずに暮らしています。なので、当たり前ですが動物たちには「薬を飲めば病気が治る」という考えは全くありません。だからといって動物園の動物たちが病気で弱っている時に放っておくわけにはいきません。では、そんな動物たちにどのようにして薬をあげているのでしょう。
最近ではイヌやネコ用に好きな臭いのする薬が作られたりしていますが、そんな便利な薬は極わずかです。基本的に薬は毎日食べているエサに入れて与えるのですが、『いかに不快感を与えずに食べさせるか』動物の種類ごとに工夫をしています。草食動物はそれほど臭いを気にしないのか、野菜などのエサにそのまま混ぜて与えるだけで食べてくれたりします。もし残してしまった場合でも、切ったリンゴやバナナの中に薬を入れて与えれば食べてしまいます。肉食動物の場合、薬はたいていエサの肉の中に忍ばせます。肉に切れ目を入れ、薬が出てこないようなるべく奥に押し込めます。この時、肉の大きさにも気を付け、なるべく噛まずに飲み込めるよう一口サイズにして切ります。アムールトラのナナ♀は粉の薬が嫌いなため、粉のビタミン剤をカプセルに詰めて肉の奥に埋め込みます。ホッキョクグマでは肉よりももっと好きな牛のあぶら身や魚脂(フィッシュオイル)、ハチミツを使ったりします。鳥ではペンギンやペリカンのように、魚のアジを1羽ずつ与えることができる種類であれば、薬をアジの口の中に入れて与え丸呑みしてもらいます。ヘビやワニなどのハ虫類の場合は、エサを与えるのが何日かに1回のペースなので、ほとんど捕まえて注射してしまいます。薬を飲ませるのが難しい動物、それはやはり頭の良いサルたちです。なるべく1頭ずつにあげられるように、毎日おやつをオリ越しに手渡して個々に受け取る練習をしています。しかし、おやつを渡すペースがなんとなく普段と違ったり、受け取ったエサから少しでも違う臭いを感じるとポイッと投げ捨ててしまいます。なので、薬はエサに入れた切れ目の奥に気付かれないように忍ばせ察知されないよう心がけます。また、小型のサルだと体が非常に小さい(体重150~300グラムくらい)ため1回の薬の量がほんのわずか(準備の際にため息で飛んでしまうくらい)なので、エサに入れるのもなかなか大変です。サルたちは味覚が敏感なので小児用の薬などなるべく甘い薬を使いますが、全く口にしない場合には水あめやミルメーク(牛乳にまぜるイチゴ味の粉)などを使って特別に作ることもあります。そんなサルの中でも最も神経を使うのがチンパンジーです。何か少しでも気になると何を試みても口にせず、何日分か準備した薬を1回も飲んでもらえないことなど珍しいことではありません。それでも飼育員はひどくならないように、また他の個体にうつらないように毎日心強く続けてくれます。
お子さんになかなか薬が飲ませられずにお困りのみなさん、こんな動物の方法を参考にして是非いろいろなやり方を試してみてください。
動物病院係 後藤 正