でっきぶらし(News Paper)

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223号(2015年04月)5ページ

オオアリクイのペロペロタイム

 私たち獣医は、毎日午前中をめいっぱい園内の動物達の巡回の時間にあてています。毎日ほぼ同じ時間にそれぞれの獣舎にいる動物たちと顔を合わせ、飼育員と今日の様子の話をします。すると、「いつものこの時間はエサを食べているのに、今日は眠っている。調子が悪いのかな?」と、何てことなさそうな動物達の変化に気づくことができます。何てことないと見せかけて、病状がすでに進行しているところが、痛みや辛さを隠す野生動物達の病気発見の難しさでもあります。「いつもと同じ」を確認することがとても大事であり、毎日続けるから些細な変化に「あれ?」と感じることもできるようになってきます。
 先日の朝、いつもの九時半くらいにオオアリクイ舎へ入りました。「入るよ、おはよ~。」いつも通り声をかけ、目が覚めていた母ヒナと娘ハヅキの親子にあいさつ代わりの指しゃぶりタイムです。このところ、朝は母親の背中ではなく、床に下りて親子で並んで巡回を待っているハヅキは私たち獣医に興味津々。舌をチョロチョロ出してにおいをフンフンかいできます。
ハヅキが私の指をなめたのは、母親のヒナがそうするのを見て真似した行動からでした。ハヅキが指に興味を持ち、何度もペロペロなめようとするので、「もうそれくらいにしておきなさい」というように、私とハヅキが向かい合っている柵のハヅキ側に、ヒナが途中で前足で割って入ってきました。まだハヅキが母親の背から床に下りて歩きまわる時間が少なかった頃で、ヒナお母さんの心配ぶりに感心しました。最近は、このペロペロタイムを楽しむハヅキにヒナも「いくらでもやってなさい」と見守ります。子供の成長は、「いつもと同じ」ではなく、「毎日変わる」のが巡回していて楽しい気づきです。
ペロペロがチュパチュパに変わってきました。私の右手の中指に吸い付いて飲み込むのではないかという勢いです。ちょうど、ハヅキの細い吻先の内腔が私の中指の太さにぴったりです。チュパチュパというか、ギューギュー吸い込まれる私の中指の腹が、ある動きを感じ取りました。「これってもしや!」
 オオアリクイはその名前からわかるように、アリを食べる動物です。野生では筋肉ムキムキのたくましい前足をアリ塚に振りおろし、鋭いカギ状の爪でアリ塚を壊し、シロアリをなめとって食べています。食べると言っても歯がないので、長い舌べらを高速で何度も出したりひっこめたりして喉の奥へ送り込みます。そうだ、歯がないので、チュパチュパされても私の指はちぎれないから大丈夫ですよ、でもこの喉の奥へと飲み込む力がものすごく強くて指を飲み込まれそうに感じます。この飲み込む強さと速さのヒミツがオオアリクイの下アゴの骨と周りの筋肉の仕組みにあるのです。
 このヒミツを解き明かしたのが、東京大学の遺体科学の遠藤秀紀先生。たとえば、私たち人間が食べ物を食べる時、下顎を上顎に対して上下させたり、水平にさせたりすることでモグモグと歯でかむこと(咀嚼運動)ができます。顎の骨の周りにはこの動きをするための筋肉がいくつか付着しています。動物の種類によって、食べ物が異なるのでそれに適した筋肉が発達したり、骨や歯の形も異なります。オオアリクイの細長い吻をつくりだす顎の骨はやはり細長いです。そして、左右の下顎の骨は結合して1個の骨を形成せず(人間は下顎左右に割れていませんよね)、なんと左右に開いてハの字を描くような動きをするのだそうです。この左右の下顎のハの字の動きが、長い舌を高速で出したりひっこめたりする運動をさせているのだそうです。人間でいうモグモグの咀嚼運動はオオアリクイではシロアリを捕えてそのまま飲み込むまでの動きにあたるということです。
 「これってもしや!」と私の中指の腹が感じ取ったのはこの下顎の左右の開閉の動きです。左右の開閉に合わせ、その隙間から舌が出し入れされてきます。舌が引っ込むときは飲み込む動きなので、私の指も飲み込む勢いなのは納得です。喉元もこの動きに合わせて何かが動いているのが見てわかります。「舌の根元がこの辺りということなのか」これも遠藤先生が言っていたことと重なります。 
 研究成果として遠藤先生にこのヒミツを最初に聞いたのは数年前の園内の職員研修時でした。「へぇ、そうなんだ」と思ったくらいでした。昨年秋に遠藤先生の博物館に関する講座を受講する機会があり、動物たちの見過ごしていたヒミツの奥深さに気づかされました。それから、巡回中にもう少し視点を変えた観察もしてみようと思うようになりました。当たり前に思っていたオオアリクイの指しゃぶりの行動も、私が指の感覚に集中したただけで、尊敬する先生の遺体からの発見を、生きる動物に実感することができたのです。この喜びは目からウロコの感覚です。「ほんとだ!おもしろい!」今は毎朝、オオアリクイの咀嚼機構の実感による証明(言いすぎですが・・)に夢中です。
 221号でお伝えしたムチャチャが亡くなっ

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