でっきぶらし(News Paper)

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225号(2015年08月)3ページ

■ますみちゃん来襲!!

■ますみちゃん来襲!!

 コンドルの担当に決まった途端、心配した先輩方が口々にアドバイスしてくれます。「コンドルのますみちゃんには気をつけろ!」「あいつは絶対に襲ってくる!」「コンドルは力が強いから、ケガじゃ済まないぞ!」
 ・・・。そう、今年度から新たに担当に決まった鳥は、襲いにくる鳥だったのでした。
鳥は空を飛ぶため体が軽く出来ていて、コンドルと同じくらいの大きさに見えるヒゲワシは体重が6kgほどです。しかし、コンドルの体重は15kg。鳥にしてはかなりの重量級。さらに、くちばしは見た目どおり大きいです。まあ、怖い。でも、ますみちゃんは目がクリクリしていてかわいい顔をしています。私が部屋に入ると「新人さんだ。どれどれ」とクリクリお目目をパチパチさせながら首をにゅっとこちらに向けてこちらの様子を見てきたりします。好奇心いっぱいの子どものような性格。それがますみちゃんの一番困ったところなのです。
ますみちゃんが人を襲ってくるのはイタズラ心です。ある日タタタッと人に向かって走ってきます。歴代の担当者は、だいたいこの『突然襲いかかってくる恐怖』を経験しているそうです。今までの担当者はみんな男の人なので、デッキブラシでますみちゃんを力いっぱい叩いて叱ったり、両手でポイッと投げ飛ばしたりして難を逃れたそうです。そしてその時のことを思い出してこういうのです。「ますみちゃんは力が強い」と。
さて、一方の私は、力にはめっぽう自信がありません。特に腕力に自信が無く、初めて富士山に登ったときは足ではなく、腕が筋肉痛になったほどです。そんな私は、ますみちゃんとの距離を確認しながら、なんとかその日の掃除を終える日々を送っていました。
そして、その日はやってきました。一番奥を掃除している最中、ますみちゃんがストンと地面に降りてきて、タタタッとこちらに向かってきたのです。頼みの綱のデッキブラシは、ススッと迂回され、右足を、ガブリッ!と噛まれてしまいました。ますみちゃんは、私の反応をみるように首をかしげながらこちらを見る余裕っぷり。その後、きびすを返してタタタッともといた場所へと戻っていきました。この日から憂鬱な一週間が始まったのです。幸い、大事には至りませんでした。噛まれた場所がふくらはぎだったのがよかったです。しかし、もし、あと数センチ上を噛まれていたら、脚の腱をブチッと切られて最悪歩けなくなってしまっていたことでしょう。
 この週のますみちゃんは、いつにもまして、目がランランと輝き、おり越しでも、私を見つけると寄ってきました。「待ちきれない」とでもいうように、首を上下に振り振り、落ちつかなげに歩き回る始末です。すっかり、楽しいおもちゃ認定されてしまった私に対し、まわりの人々は「とにかく無理はしないで」と言います。つまり、ケガするくらいなら、掃除はしなくて良いよと言ってくれているのです。扉を開けるたびにますみちゃんは、おもちゃである私に近づこうとしてきて、全く掃除になりません。こちらも1度噛まれるとすっかり怖くなってしまっています。だって、次に噛まれた時は、今度こそ歩けなくなるかもしれないんです。そんなことになれば、コンドルどころか、ほかの動物の世話も出来なくなって、たくさんの人に迷惑をかけてしまいます。そんな時に言われた「無理しないで」はとても甘い誘惑です。むしろ、無理しないで、といわれているのに、掃除に入ってケガをしたら、2回も噛まれるなんてなんでそんな馬鹿なことをしたんだと言われてしまいます。でも、掃除に入らないと、どんどんコンドルの食べ散らかしたゴミが溜まっていきます。ますみちゃんが困った性格なので、コンドルの部屋だけは、担当しか、奥まで掃除に入らなくてよいことになっていて、掃除をするのは私しかいません。
 この週は家に帰っては、Youtubeで護身術を勉強する日々でした。か弱い女性でもできる簡単な身を守る方法を知りたいのに、なぜか講師の先生はマッチョばかり・・・。こんなの参考にならないよーと思いながら、見ていて再確認したのは、自分の出来ることと相手の動ける範囲を知ることが大事だという、「己を知り敵を知れば百戦危うからず」の精神でした。何度も頭の中でますみちゃんの動きをシュミレーションし、実際にデッキブラシを振り回して、どのくらいの距離なら、ますみちゃんが懐に入る前に動きを止められそうかを検証しました。そして、今日こそ、奥まで入ってごみを全部拾ってくるぞ!いざ、出陣!の前にも廊下でため息です。ああ、ヤダヤダ。失敗したらどうしよう。
 結果的に、ますみちゃんは、力の強弱に関係なく、自分が攻撃されるのを極端に嫌う性格だったことが分かりました。おそらく力は私より強いであろうますみちゃんが、逆切れして反撃してくるのが一番心配だったのですが、見た目どおりの愉快犯ますみは、楽しくないことからは遠ざかる性格だったようです。コンドル

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