226号(2015年10月)6ページ
実習だより
飼育実習を終えて
私は9月9日から13日までの5日間、日本平動物園で飼育実習をさせて頂きました。5日間という短い期間の間に、夜行性動物館と熱帯鳥類館の動物、ペンギン、マレーバク、サイ、中型サル、小型サルと多くの動物の餌の準備や給餌、部屋の掃除……それだけでなく全動物の餌の準備のお手伝い、獣医の卵ということで園内巡回に同行と沢山の事を経験させて頂きました。印象に残ったこと、勉強になったことが沢山あり、書ききれなさそうなので、いくつか絞って書かせて頂きたいと思います。
「動物園の飼育員さんや獣医さんは動物たちに懐かれてとっても好かれている。」皆さんは少なからずそんなイメージをお持ちではないでしょうか。しかしながら実際に体験してみると大きく違っていました。興味深そうに近づいてきてくれる動物たちもいましたが、動物たちのほとんどは、掃除や餌のために檻の中に入ると急いで逃げていったり、威嚇してきたり。ヤマアラシが毛を逆立てて「ふーっ!」と言ったのには動物大好きな私も恐くなってしまいました。動物園にいる動物たちは、人間を恐がり近づかない野生動物と、人間が大好きで近寄りたい伴侶動物の中間のような存在なのです。そのような中でも飼育員さんたちは、動物たちとの絶妙な距離を保ちつつ、声をかけ、普段と変わったことがないか判断していきます。動物たちの健康が保たれ、お客さんに見てもらえるのは、飼育員さんの存在があるからなのだと実感しました。
もうひとつは、獣医さんの園内巡回に同行させて頂いた時に驚いたことについてです。大学の実習では犬や猫から採血などをする際にきちんと保定(動物が動かないように抱え込むこと)をするように言われます。牛などの大型動物では枠場と言われる動物を動きにくくするためのものに入れます。動物も私たちも怪我をしないように、動物を動かなくすることが大事だと思っていたのですが……オオアリクイの所に行ったときです。肢のガーゼ交換のお手伝いを頼まれたのですが、そこに枠場はありません。もちろん保定する人が私だけでは犬や猫のように保定もできません。どうするのだろうと思っているとオオアリクイの肩のあたりをポンポンと叩くように言われました。たったそれだけでオオアリクイは気持ち良さそうに体を前後に動かし、ガーゼ交換をさせてくれました。他にもサイやマレーバクはブラシでこすっていると大人しくなり採血ができることも教えて頂きました。動物たちの好きなことを知り、上手に付き合うことができれば、保定しなくても大人しく処置させてくれることが私にとっては目から鱗でした。また獣医さんの治療方針がどんなに素晴らしくても、動物からの信頼を得ている飼育員さんの協力がなくては効果を生まないことにも気づくことができました。
今回の実習では、大学の講義や実習では学ぶことができないような貴重な体験をすることができました。無知であることを知ることができ、さらなる向学心を持つこともできました。職員の方々にはご多忙にも関わらず、丁寧なご指導を頂いたことをこの場をお借りして感謝申し上げます。今回の実習で学んだことを将来の仕事に活かして、素敵な獣医師を目指したいと思います。
岐阜大学 応用生物科学部 獣医学課程 鈴木香澄