228号(2016年02月)5ページ
「ブラッザグェノンのお見合い」
「ブラッザグェノンのお見合い」
皆さま、明けましておめでとうございます。
昨年は、レッサーパンダのシーが双子を出産したこと、アメリカからキリンが2頭やってきたことが日本平動物園の最も嬉しいニュースとなりました。その反対に、アメリカバイソンのマック、ジャガーのキコ、来たばかりのキリンの男の子、レッサーパンダのシュウシュウとタケルなど…皆さんにとても愛されていた動物が死ぬという悲しいニュースもたくさんありました。私たち獣医師にとって、病気やケガをした動物が元気に生きられるよう治療をすることとともに、動物が子どもをたくさん産むよう繁殖の手伝いをすることもとても大切な仕事の一つです。そのため、他の動物園にお婿さんやお嫁さんに適した動物がいないか探し、交渉してその動物をもらったり借りたりします。
現在、日本平動物園の中型サル舎にブラッザグェノンというサルが3頭で暮らしています。3頭ともメス(母と娘2頭)で父親は5年前に死んでいます。娘が7歳と5歳といいお年頃になってきたし、母親も16歳とまだ現役(?)なので、豊橋総合動植物公園からお婿さんを1頭もらいました。「ユウキ」という名前の、とてもきれいな顔と毛づやをした6歳のイケメン(イケザル)です。豊橋から車で運んできたあと、動物病院の検疫室に数日間入ってもらって、その間に寄生虫や細菌感染がないことを確認しました。普通ならこのあと中型サル舎のブラッザグェノンの獣舎に入ってもらうのですが、先住民のメス3頭はなかなかの強者(つわもの)たちです。ホームに弱いオスが入って来ようものなら、メスがよってたかってイジメてしまうかもしれません。そこで、アウェイである動物病院へ彼女たちを全員連れていき、順番に1頭1頭ユウキとお見合いさせることにしました。
12月のある休園日、中型サル舎に獣医師3人と担当飼育員がタモとケージを持って行き、汗だくになりながら飛び回るメスザル3頭をなんとか捕獲し、すたこらと病院へ運びました。1頭あたり入院室のケージ2部屋分(4頭で8部屋分)をブラッザグェノン専用アパートとし、入院室はサルでいっぱいになりました。上段にユウキと相手のメス、下段にその他のメス2頭という部屋割りです。見合いの方法は、ユウキとメスの部屋の仕切りを初めはステンレス板にしておき、そのあと仕切りを網に換えて網越しに対面させて慣らし、最後は網も外して同居といった感じです。
まず初めの相手は、一番性格が穏やかな長女の「ポッケ」です。網ごしにお互い近づいたり、お尻の匂いを嗅いだりしていい感じになったので、仕切りを外していよいよ同居です。同居の時は、必ず飼育員と獣医師が立ち会って見守ります。もしケンカするようなことがあれば、すぐに引き離したりケガの治療ができるようにするためです。争いもなくいい雰囲気で同居できたのでホッとひと安心。次は、ちょっと性格がキツくて体格の大きい次女「ポッキー」の番です。すると、網を外して同居開始から2,3分もしないうちに、女子から積極的にユウキにくっついてお尻を猛アピールしていました。ユウキも彼女をとても気に入ったようで、同居中ずっとイチャイチャ仲良くしていました。娘2頭のお見合いは無事に終わったので、いよいよ最強キャラの母親の番です。彼女が認める男でなければ、きっと娘たちとの結婚も同じ家に住むことも認めないでしょう。ドキドキしながらいよいよ同居が始まった瞬間、みんなの予想に反して母親が色っぽい顔をしながらユウキに近づいていき、誘惑するようにくっついていきました。ポッキー相手ほどではありませんが、ユウキもまんざらでもないようです。母親は、年下のカレをとても気に入ってしまったようです。
争いもケガもなく全てのお見合いは終了し、どうやらメスたちの中に新入りのオスが入って暮らすのは大丈夫そうです。そして、ユウキがとてもモテ男だということがわかりました。お嫁さんに誰を選ぶかはユウキ次第といった感じで、まったくうらやましい限りです。そしてかわいい赤ちゃんがいつ生まれるのか、仲人としてはとても気になるところです。
(動物病院係 塩野 正義)