251号(2019年12月)3ページ
リンカーンとアラシのトレーニング記録
一方で、リンカーンはほとんど進展のないまま、数か月がたちました。トレーニングがストレスになりそうだったので、やめようかとも考えましたが、ここでやっと、ひらめきました。かみつく前、リンカーンがターゲットを目で見た瞬間に、合図をあげようと。この作戦はうまくいきました。ターゲットへ飛びつくことをやめたのです。ただじっとターゲットを見つめることができるようになり、徐々にリンカーンも鼻タッチができるようになりました。
結果、2頭ともなんとか1年で、無麻酔体重測定まではできるようになり、一応、これで一区切りかな、というところで担当を代わりました。ゲームの意図を理解し、考えて参加してくれる優等生なアラシにトレーニングに必要なタイミングやモチベーションを教えてもらい、永遠の幼稚園児みたいなリンカーンに想像力と工夫力を駆使することを教えてもらいました。対照的な性格の2頭を相手にトレーニングの勉強をできたことはとても幸運だったと思います。もうこれで、たいていの性格はなんとかできそうと自信をつけた私の前に、今度は「合図をしていないのに一番楽なポーズをとってごほうびをもらおうとする姑息なロッシー」という新たなタイプが現れました。現在、ホッキョクグマのトレーニングには関わっていないので、横目で見ている感想ですが、どうもロッシーは最終的には指示に従ってくれているようなので問題はなさそうです。トレーニングは健康管理のために行っているものですが、それらを通じて、観察だけでは見えてこない個体の性格が垣間見えるのはとても面白かったです。
(中村 あゆみ)