50号(1986年04月)11ページ
動物病院だより
園内の桜も満開となり、陽気に誘われて訪れる人もふえてきています。
先月号でお知らせしたワライカワセミは、四卵とも無精卵でした。とても熱心に抱卵していたので期待も大きかったのですが・・・。
当園も開園して十六年の月日が流れました。開園当初幼かった個体も一人前になり、父親、母親となっています。大人になるということは、いわゆる成人病といわれる病気になる危険も伴っています。
当園には、日本の動物園の中で、ここにしかいないというサルがいます。その名は「ハイイロキツネザル」。マダガスカル島原産のサルです。繁殖も五回ほどしたのですが、残念ながら、今はメス二頭となってしまいました。
この内の一頭が、糖尿病でただ今療養中なのです。最初、担当の有海飼育課員から「エルザ(ハイイロキツネザル)が、この頃ばかに水を飲むよ」と連絡を受け、見ていると以前よりなにかやせたように思われました。そのうち動きが鈍くなってきました。
「こりゃ、ひょっとして糖尿病かもしれない」さっそく採尿し、尿検査をしたところやはり糖(+++)という結果がでました。まずは、餌の再点検をすることにしました。ハイイロキツネザルの盲腸は他のサルに比べ大きいから、たぶんササなどの繊維を分解してエネルギーにする力はあるだろうと考え、バナナ、パン、サツマイモなどは一斉与えず、ササと白菜だけに切り換えることにしました。有海飼育課員は「他のサルに与えているのにハイイロキツネザルだけこんなものでいいの?なんだかかわいそうで・・・」と、つらそうに言いました。
そして一〜二ヶ月経過したでしょうか!!尿検査の結果(−)となり、動きも良くなり大喜び!!ところが油断してバナナ、パンなどを少々与えた為、一ヶ月後には再び糖(+++)となってしまいました。そこで再度食事制限をやったのですが、効果なくそのうち尿に血が混じるようになってしましました。ヒトでは、毎日インシュリンを注射し、血糖値を調べ、コントロールすることができますが、野生動物では毎日捕獲するだけでストレスがたまり、死に至らしめる危険があります。そこで、血糖降下剤を飲ませ、毎日尿検査を実施し、様子を見ることにしました。朝、目覚めて動き始める時、必ず排尿するので、その瞬間をねらってコップをケージの下に置いて採尿しています。今のところ一時期より状態は良くなっているようです。
この他、動脈硬化症、心筋梗塞、肝硬変、あるいは癌といった症例も見られるのですヨ。
(八木智子)