でっきぶらし(News Paper)

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112号(1996年07月)6ページ

動物を知る(?T)チンパンジーの記憶

 「パンジー」と声をかける必要性はありませんでした。何人かいたお客様の中に私がいるのを彼女は目ざとく見つけました。目がはっと驚いたようで、なんで貴方がここにいるのと言いたげでした。
 パンジーが、豊橋の動物園に養女に出されたのは昨年の12月ですが、私は類人猿から離れて9年ちかくも経っていますから、私の顔を忘れかかっていても不思議ではありません。しかも、類人猿を担当している時でも、彼女と直接接したのはわずか2年ぐらいでした。
 それでも、頭のいい彼女は私をしっかり覚えていました。ちょっとデモンストレーションをやろうとしましたが、仲間がすぐにグルーミングをやりにきてそれは諦めました。
 チンパンジーの知能程度は、ヒトに比べると3才くらいに当る、と動物園に入った頃によく聞かされました。正直に言って、昔も今も根拠のはっきりしないこのような判断の仕方は好きではありません。チンパンジーをむしろ馬鹿にしているとさえ思います。
 野生では優れた集団を作り、道具を使用し、貴重な獲物をも仲間に分け与える術すら心得ています。それは、とてもヒトの3才児の知恵ではありません。 
 飼育下において手話を教えれば、何十何百と覚え、自らの子にも伝える力を持っているとすら言われています。では、何才くらいの能力に匹敵するのか、と聞かれても困ります。ただ、ヒトと動物の能力は異質なもの、むやみにヒトを基準にした判断はしないほうが良い、と言ったほうがいいでしょう。
 豊橋の動物園は時折訪れる動物園ですが、パンジーはいつになったら一般のお客様と変わらずに私を見るようになるのでしょう。彼女は特に頭のいい個体だったので、それは永遠にないかもしれません。
(松下憲行)

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