でっきぶらし(News Paper)

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43号(1985年01月)4ページ

良母愚母 第三回(猛獣編)【ヒョウ(良母と愚母の狭間を…)】

 今は亡きヨッコ。実績としてはクロヒョウより更に悪いものを残しています。子を食べてしまい、跡形もなくしてしまったのが、その最もたるものでしょう。“ぐうたらママワースト10”の中でも、第三位にランクしました。
 だからと言って、愚母と片付けてしまうのには、ずいぶん引っ掛かります。自らの力でも二頭と、数は少ないながら育てた実績も持っています。では、何がそんなに実績を悪くさせたのでしょう。八回、十五頭に及ぶ子を産みながら、五頭(人工哺育も含む)しか育たなかったのでしょう。
 ひとつには、私たち飼育係の未熟さがあげられます。ヨッコは、初産を放飼場で迎えたのです。朝、いつもと違って放飼場に出たがらず、様子が変だったのですが、ついついいつものパターンで出てしまった結果が、そうなってしまったのです。
 これでは、ヨッコに育てさせようもありません。かつ、未熟な状態でうまれる食肉獣の赤ちゃんにとって、コンクリートはかなりの衝撃です。二頭うまれながら、共に脳内出血で死に至らしめてしまいました。
 もうひとつは、ヨッコ自身の神経質さがあげられます。出産直後に興奮させたら、子を食べてしまう、飼育係ならずともネコを長らく飼われている方なら、充分に承知している彼らの悪癖です。にも拘らず、最大に気遣い、そっとしている中で、そのショッキングな出来事が起こってしまいました。
 飼育係のいない夜間に、何があったのかはわかりません。が、わざわざヒョウの子を狙いにくる動物がいるでしょうか。ちょっと覗かれたぐらいで、“最後の愛情表現”を示されてはかないません。もう少し図太くなってくれ、と願いたくなります。
 たいていは、長くいると動物園生活に慣れてそう神経質にはならなくなります。中にはトラのカズのように、子に触れても怒らなくなる個体もいます。が、個体は様々。餌を与えて大事にしているのだからと、一様にそれを求めるのは、思いあがりもはなはだしいでしょう。
 わかっていただけますか?現在のクロヒョウのオスを立派に育てあげた一方で、愚を繰り返していたのです。良母とも言い切れず、かといって愚母とも言い切れません。その間をさ迷い、さ迷い続けたまま、この世を去ってゆきました。

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