でっきぶらし(News Paper)

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43号(1985年02月)5ページ

良母愚母 第四回【フライングケージ(良母、愚母入り混じって…)】

 キリン舎に向かい合っている建物、遠くからでも一番目立つ建物、それがフライングケージです。現在飼育されているのは、十九種類、過去に飼育された主なものを含めれば、三十種類は越えるでしょう。
 ここでの繁殖の一番手は、オオヅル。多様な鳥類が飛び交う中で、大きさでは群を抜き、他を圧倒していました。良母愚母うんぬんよりも無法者のイメージのほうが鮮明です。この辺は今までの“でっきぶらし”を読み返して頂けたら、と思います。
 オオヅルが追放されて花が咲いた。オオヅルには申し訳ありませんが、それがフライングケージの現実でした。ショウジョウトキ、カルガモ、マガモ、バン、アメリカオシ、オシドリ、ツクシガモ、これらの鳥類がそれ以降に繁殖しているのですから、しかもペリカンを初め何羽の鳥を殺していたのですから、ここでは悪者扱いにされてもやむを得ないでしょう。
 最大の良母、良母群となれば、何と言ってもアメリカオシ。昭和五十年代前半における繁殖力はすさまじく、幾つものペアが次々と産卵しふ化させました。ひなが病気等で全滅すると、すぐに次の産卵。抱卵態勢に入ったペアもいたのですから、その凄さが分かろうと言うものです。
 もちろん、繁殖数は断然トップ。そして、未だにその実績に迫ろうとする良母、良母群たる種は、現れておりません。
良母で華やいだ話題で包んだのは、ショウジョウトキ。餌にアジの切り身だけでなく、ドジョウやオキアミを与えて、トキ色を復活させると同時に、営巣活動が始まりました。が、不思議と言うか、何と言うか、幾つものペアが抱卵しながらも、うまくひなをかえすペアが決まってしまった、と言うことです。
 そのペアの繁殖力の衰えと、ケージの金網を痛めるからとの樹木のせん定が相まって、ショウジョウトキの話題は、次第に消えてゆきました。樹木が復活し始めた最近、産卵、ふ化にはどうにかこぎつけているようですが、無事成長にはまだ時間がかかりそうです。
 真黒いひなが、徐々にトキ色に変身、いつしか母親に負けない光沢を放って舞い上がる姿は、何とも言いようのない程素晴らしいものです。その感激に浸りたく、良母の夢よもう一度と願うのは、私ひとりだけではないと思います。
 成長率が悪いものの、途切れることなく繁殖しているのがバンです。聞けば、恐らくこれもひとつのペアによる繁殖だろう、と言うこと。上手、下手、どの鳥類にも付きまとっているようです。
 良母としての評価はともかく、この母親を悩ませたのはネズミでした。成長率が悪いのは、ネズミのせいだったのです。ニワトリのひなよりも更にひと回りもふた回りも小さいバンのひなは、フライングケージに侵略してきたネズミにとって、格好の餌食でした。
 もっとも、当時の担当者のネズミ憎しの全滅作戦もすさまじく、穴という穴を水攻め。今は、一匹いるかいないかぐらいになっているそうです。
 増え過ぎたアメリカオシを池に放った時、それにぴったりくっついている一羽のオシドリがいました。それを仲間と信じて疑わずにです。いったいどういうことなのでしょう。
 託卵とは、野生において、例えばモズの巣にカッコウが卵を産み、かえったひなが、せっせとモズから餌を貰ったりすることを言います。これ以外にも、何種類かの鳥類に見られる面白い習性です。それを知っていた訳でもないでしょうが、一羽の横着なオシドリが、アメリカオシの巣に卵を産みつけたのです。
 アメリカオシと共に育ったオシドリにとって、自分をオシドリと思い込みようもありません。ふ化して一番最初に見たのがアメリカオシ、しかもその中で成長。“すりこみ”のなせる業です。
 このオシドリが、フライングケージにおける最たる愚母。物の見事な抱卵及び育雛の放棄です。他園でも、こんな話ちょっとないのではないでしょうか。
 その他、カルガモやマガモ、最近ではツクシガモが、ふ卵器でふ化しています。が、哺乳と同じ目で捕え、愚母と位置づけるのは、早計です。巣箱の不備やカモメ類がいて、卵を盗まれてしまう危険がある場合等、あえてふ卵器に入れることが多々あるからです。
 まだ産卵すらもない鳥類が結構います。そんな鳥類も、時の流れと共に悲喜こもごもの話題作りをしてゆくことでしょう。できれば、悲は置いて喜のほうだけ、良母の話題作りだけをして欲しいものです。

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