でっきぶらし(News Paper)

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72号(1989年11月)3ページ

一九八九年の話題を追って【オランウータンのテツ逝く】

 三月五日の夕方「テツが逝っちゃったよ」の獣医よりの報告に、突然頭に冷水をぶっかけられた思い。何故だ。朝だってあんなに元気だったんじゃないか、と。
 解剖台にのせられていたテツに触ると、手だけでなく、体内にしっかり体温が感じられました。当たり前です。つい先程まで息をしていて夕食もきちんと食べたのですから―。
 その日は朝から天気がぐずついていて、昼前より雨がしとしと降り始めていました。担当者はそんな天気に気を遣い、日曜日ながらいつもより早めに入舎させ、掃除も終わって控え室でほっとひと息腰を降ろした時、テツの部屋から妙な呻き声が―。
 苦しそうな声が、本当に息のできない苦しそうな声が聞こえてきたそうです。どうしようもなく呆然と見つめている内に、ピクリとも動かなくなったそうです。
 いわゆる急性心不全、今までどこにも異常がなくてある日突然心臓が止まってしまう病気です。あまりにも唐突で、何か悪い夢でも見ているようでした。
 テツとは、十八年間付き合いました。来園時は推定で四才ぐらい、体重二十kg足らず。妙にいじけた奴でした。
 でも、次第に打ち溶け合って、互いの若さとバカさががっちゃんこ。ボクシング、レスリングをよくやりました。負ける訳にはいきませんから、テツはかなり痛い思いをした筈です。が、それでも面白がっていくらでも遊びをせがみました。
最後は、発情。テツのメスのクリコへの思い入れを甘く見て、私が痛い目にあわされました。が、それとて今は懐かしい思い出です。
 クリコ逝き、今度はテツ。私の青春時代を彩ってくれた動物が、またひとつ消えました。

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