でっきぶらし(News Paper)

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118号(1997年07月)5ページ

シロウありがとう

 9月5日の金曜日、朝9時10分頃キリンのオス、シロウが息を引き取りました。年齢はまだ9才とちょっとで、キリンの寿命が25年位ですのでまだこれからという若さでした。
 振り返れば今年の2月半ばに左前肢を引きずるようになり、途中吹き矢で投薬したり、飲み薬を与えたりと、ここ半年ほどは闘病生活を送っていました。少しは足の調子が良くなった時もあり、メスのキッコと一緒に放飼場で仲むつまじくしていた時もあったのです。
 9月3日の水曜日の昼に室内で後肢がカエルの様に開いてしまった状態で座り込んでしまいました。すぐに職員一同で何とか立ち上がらせようと必死になって上からチェーンブロックで吊り上げ、どうにか自力で立てる状態にまでなりました。その時は本当に信じられないような感じで、奇跡的だと思いました。
 それは、今までに自分自身キリンの最期を2回見てきたのですが、1度倒れたり、自分で立てなくなってしまったキリンは、どうしてもすぐに力尽きてしまう場面を間近で見てきたものですから、もうシロウもダメなのかと頭の中を不安がグラグラとよぎりました。
 けれどもそんな状態でもシロウは与えたリンゴをパクパク食べて、まだ大丈夫だよというような表情を見せてくれました。そして、立ち上がってからは、自分で部屋に歩いて行き、正常な座り方で座って、皆を一安心させてくれました。
 その日の夜は私がキリン舎に泊まりこんで観察をしました。その夜は特に問題はなかったのですが、2日目の夜、 時頃より異常に気づきました。シロウが座った姿勢から自分では立とうとしているのですが、右後肢がすべっているような感じで立ち上がれなくなってしまいました。自分一人だけだったのですが、何とかしなければと思い、すべっている右後肢に板を当てて、唐?張りが少しでも効くようにし、シロウと呼吸を合わせて「せーの」で立ち上がろうとしたのですが、身体半分近くまでは上がってもそこからは上がれず、ドシーンと尻もちをついてしまいました。
 しばらくして再びチャレンジをしましたが、身体は上がることは上がるのですが、また半分位上がったところで同じようにドシーンとお尻から落ちてしまいました。
 これは、シロウと私だけの力ではどうしようもないと判断しましたが、「シロウ、大丈夫だよ、心配すんな。」と声をかけました。するとシロウは、申し訳なさそうに悲しげに耳をパタパタさせていました。
 そして朝一番で、職員一同でシロウの大救出が始まりました。前回と同じようにチェーンブロックを使い、何とか吊り上げましたが、今回は前肢にも全然力が入らず、シロウは宙吊りの状態となり、お腹に、吊り上げる時に使った平帯やネットが異常にくいこみ、苦しくて足をドタンドタンとさせたり、頭をコンクリートに打ちつけたりと、とても見ていられない状態でした。そうこうしているうちに動きが止まってしまいました。壮絶な最期でした。「シロウ、ごめんな。」としか言えませんでした。そして、命の重さというものを改めて考えさせられました。
 解剖の結果、内臓には特に異常はなく、前肢、後肢に関節炎が見られ、足が弱かったのがどうも原因のようでした。
 今はメスのキッコが一人となってしまい、とてもさみしがっています。シロウが立てなくなってしまった時は、夜もとても心配して寂しげな瞳でずっと見守り続けていたのですが、シロウがいなくなった後、本当にしょんぼりしてしまい、今でもシロウを捜しているようなしぐさをしています。
 シロウ、本当に今までありがとう。お前のおかげで、何人ものお客様が身近にキリンを感じることができたよ。みんなキリンさんに触ることができて、子供たちも本当に喜んでいたよ。感動をありがとう。本当に感謝しています。お前のあのあどけない表情は一生忘れないよ。安らかに。
(松永享)

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