でっきぶらし(News Paper)

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54号(1986年11月)8ページ

レンズから見た動物達【担当者の協力を仰げは】

 動物の成長記録を撮る者の心をわくわくさせずにはおかない、マレーバクの赤ちゃん。体全体を覆ううり模様が、徐々に変化してゆく様子がたまらないのです。
 しかしながら、この獣舎にはいろんな悪条件があり、どちらかといえばカメラマン泣かせでした。外からカメラを構えると、目線よりぐっと下になり、どうしても見下ろすような感じで写ってしまうし、それに日照時間が短く、かつ奥のほうは相当に暗くて、まともなシャッタースピードが稼げない、等の条件が重なってしまう為にです。
 時にはストロボをたいたりもするのですが、そんなことで悩みが解消するものではありません。生きた感じ、というより温かい感じで捕らえようとするなら、目線が対等だけでなく、時にはアップででも撮りたいものです。
 担当者からは「おとなしいから声をかけて中へ入ってゆけば」とのアドバイスを受けたのですが、気心の通じていない動物に近づいてゆくのは、やはり恐いものです。外国では、マレーバクに襲われて片足を喰い散ぎられた飼育係がいるとも聞いたことがあります。
 この恐怖心から解放され、非常に充実した感じで成長記録が撮れるようになったのは、担当者のある接触法を見てから。全身ブラッシングです。
 担当者が声をかけると、それを待っていたようですぐそばに寄ってゆきます。固い金属性ブラシでシュッシュッとして貰っている内に、恍惚に浸る表情を示しながら長々と横たえてしまったのです。しばらくは、ちょっとやそっとでは動きません。
 マレーバクと担当者との信頼関係、ブラッシングされている時の夢見的な表情。それを見てすっかり安心し、以後は担当者に協力を仰ぐことしきりでした。
 アップはもちろん、親子や担当者との触れ合い等、“温かいシーン”がいっぱい撮れたことはいうまでもありません。ちょっと調子にのり過ぎたくらいです。
 以上、「レンズから見た動物達」のワイド版でした。これからも時折こんな企画を立てるつもりでいますが、まあ、単に飼育しているだけでない、飼育係の裏側をちょっぴりながらも分って頂ければ幸いです。
(松下憲行)

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