でっきぶらし(News Paper)

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54号(1986年11月)10ページ

動物病院だより

 だいぶ遅くなってしまいましたが、皆さんあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 さて今年の幕開けはパッとせず、これからの一年間が大いに気になるところです。と申しますのは、昨年の暮れ、十二月二十七日にマレーバクの母親の下顎にできた腫瘤(こぶ)が少し大きくなり、熱感がありました。そこで餌の中に消炎剤を混ぜ、三十日にレントゲン撮影を行なうことにしました。
 当園のマレーバクは、どういうわけかどの個体も一度は下顎や頬部に腫瘍ができ、治療を行なっていますが、いずれも大事には至っていませんでした。今回もそのつもりで治療を開始したのですが、三十日朝、「マレーバクの母親がふらついてたてないよ」と連絡が入り、急いで獣舎にかけつけました。入ってみると、立っても後肢よりくずれ、壁にぶつかり、目もうつろな状態となっていました。その親のそばには、七月生まれの子が不安げに立っていました。たぶん下顎にできた腫瘍から、血液を通して細菌が体全体にまわってしまったようです。
 そこで直ちに子をわけ、母親の寝室内に乾草をたくさん敷き、ふらついて頭をぶつけないよう壁側には、乾草を並べました。そして抗生剤、消炎剤、副腎皮質ホルモン剤等の投与をしましたが、呼吸は依然荒く、苦しい状態でした。
 翌十二月三十一日、なんとか峠を越えてくれたようで、呼吸も落ちつき、餌もいつもと同じぐらい採食してくれ、ほっとしました。
 しかし安心するのはまだ早すぎました。元旦の午後あたりから再び呼吸する時にやや雑音が混じるようになり、二日の朝、治療の為入っていくと横になったままでいました。立とうとしても起きあがれないようなのです。点滴の準備の為病院にもどり薬を持ってもどってくると、三宅飼育課員が部屋からでて来て
 「二分ぐらい前にダメだ」
と一言ぽつり。あまりにもあっけなく、終わってしまったこの結果に、担当の小池飼育課員とともにボーとつっ立っていました。
 その後解剖を行ないましたが、やはり肺のダメージが大きく、全体の1/6ぐらいしか機能をはたしていないようでした。解剖結果を記載しながら
 「三十一日には、どうして状態が回復したんだろう」
 と思い、やってきた治療をふりかえり、他にすべきことはなかったか考えていました。
翌日、獣舎に子どもをもどすと、母親を探してキーキーないていたそうで、なんともせつない思いがしました。
 一九八六年の前半は、ベビーラッシュで明るいニュースが続きましたが、後半は、中国からいただいたレッサーパンダ、ヒゲワシなどの死があり、なかなかうまくゆかないものだと感じた一年でした。
 一九八七年、どうぞ明るく充実した一年でありますように。
(八木智子)

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