でっきぶらし(News Paper)

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47号(1985年10月)8ページ

良母愚母 第8回 ◎ミーアキャット(今は昔、繁殖の夢)

 ジャコウネコの仲間である、この動物をひと言で形容すれば、小さな可愛い猛獣。モルモット程の大きさしかないものの、気性の激しさは天下一品です。なにせ飼育のし始めは、仲間同士のトラブルが原因で全滅させたことがあるぐらいですから。
 かなり以前のムジナ会(飼育係の勉強会)に発表されたものを読んでも、担当者の苦労がうかがえます。喧嘩はするわ、寒さには弱いわ、ちっとも懐いてくれないわでは、やっていても張り合いがなかったかもしれません。
 でも、再度試みた飼育の中で、繁殖が意外にスムースにいったのは、我慢を重ね、彼らの習性を充分に飲み込んでいたからではないでしょうか。喧嘩をさせないように、それには非常に気を付けていたようでした。傷自体はたいしたことがなくとも、爪に相当細菌がついているようで、たいてい化膿が原因で死んでいったそうです。
 増え出すともの凄い勢い。1年に2度、3度。しかも数頭いっぺんにですから、病死した個体がある程度あったものの、彼らの住居はあっと言う間に満杯になってしまいました。
 そこでやむなく放出と相成った訳ですが、何度目かに、肝心の元の母親を間違って放出してしまいました。繁殖は、そこで見事なまでにストップ。以後、交尾した話すら聞けなくなりました。
 どこそこの動物園では、増えて増えてうじゃうじゃいるなんて聞けば、歯がゆくて、お前たちしっかりしろ、とも言いたくなりますが、彼らを責めても仕方がないでしょう。責任は飼う側にあるのですから―。
 繁殖の秘訣は、いい個体に恵まれることだ、と常々言い続けていることですが、ミーアキャットの場合は全くそれを地でいっています。たった1頭の良母を失ったことによって、完膚なきまでに繁殖の夢を叩き壊されてしまったのです。今は、その良母の末えいが残っているだけとなりました。
(松下憲行)

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