126号(1998年11月)12ページ
あらかると 「チンパンジー家族は風邪をひいても・・・」
今年の冬は、風邪が流行しそうだという声を聞き始めた途端、妊娠中のチンパンジーに咳と鼻汁が出始めたのが最初。次の日にはもう、チンパンジー全員が鼻水をたらしていました。
不思議なことに、人工哺育の1頭は同じ建物の中とはいえ、遠く離れているのに同じように風邪をひいてしまいました。その間を往復しているのは飼育担当である私なので、私たちがウイルスの運び役になってしまったのでしょうか。
最初に風邪をひいてしまった妊娠中の個体の咳や鼻汁がひどいので、お腹の子供に害がない薬を調合してもらいました。それともう一つ心配だったのは、昨年4月に生まれた子供です。しかし、この子は鼻水やクシャミはするものの、それ以上ひどくならず一安心しました。
そうこうしているうちに風邪もやっと峠を越え、しばらく静かな日が続いたと思ったのも束の間、昨年末から正月にかけてまた風邪をもらってしまいました。
今年はオスのチンパンジーが最初の患者で、症状は前回とまったく同じ、咳、鼻汁がひどくてこれもあっという間にチンパンジー全員に広がってしまいました。
最初の患者であるオスが特にひどく、投薬を続けてやっと峠を越えることができました。前回、今回とも、全員が食欲をなくさなかったのが幸いだったといえるでしょうか。
冬に入ってすぐに風邪をひいた時、冬の間に2、3回はひくかもしれないな、と思った不安が的中してしまいました。しかし不思議なことにチンパンジーが2回も風邪をひいているのに、同じ類人猿舎に住んでいるオランウータンやゴリラ、そして私たち飼育担当者はまだ風邪をひいていません。
けっして風邪をひきたいと言っている訳ではありません。とはいえ、これはどうなっているのかと首をかしげます。が、ありがたいことではあります。
(池ヶ谷正志)