125号(1998年09月)7ページ
動物病院だより☆ユキヒョウと水鉄砲
それはある秋の晴れた朝でした。無線でユキヒョウのオスの目の様子がおかしい、目玉が見えないとの報せが入りました。急いで猛獣舎に駆けつけてみますと、左目の瞬膜という目の内側にある粘膜が腫れ上がっていました。つまり、その瞬膜が眼球に覆い被さり、横に押しやられ、目玉が見えないというような状態になっていたのです。このような症状は物理的に炎症が起こった場合にもなりますが、体の内部の調子が悪い時にも現われます。今回は片目だけであり、その他は異常がないようなので瞬膜だけの問題だろうと判断しました。私たちが夕方に見回りに行くと、寝室で「バタン、バタン」と飛び回って、「グルグル」とのどを鳴らして歓迎してくれるのですが、そんな時にどこかにぶつけたのかもしれません。
当然、治療をしなければならないのですが、ユキヒョウは猛獣ですから、一緒に中に入って投薬をするわけにもいきません。そこでまず、抗生物質と炎症を抑える働きのある目薬を注射器に入れ、水鉄砲のように飛ばして目にかけようということになりました。幸いこの個体は人懐っこい性格をしていましたので、人止め柵を越えて檻越しに呼ぶと側にやって来て、ちょこんと座りました。そこで狙いを定めて目薬を発射しました。すると「何するんだよ」と顔をしかめたものの、そのまま座っていました。それを何回か繰り返し、持ってきた目薬を使いきったところでその日の点眼治療は終了とし、後は飲み薬も出すことにしました。夕方には7割方腫れも収まり、点眼と飲み薬で何とかなりそうな感じでした。
次の日の朝、顔を見に行ってみると、ほぼ腫れは収まっていて、「よし、よし」と思っていたのですが、担当者に聞いてみると薬の入った餌は全然食べていないとのことでした。そこで再び点眼です。「昨日の今日で、側まで来てくれるかなぁ」と考えていたのですが、檻越しに呼んでみるとまたすぐ側までやって来て座りました。そこで昨日の処置の繰り返しです。これを3日間続けて、全快となりました。
相変わらず、夕方に見まわりに行くと「バタン、バタン」と飛び回って歓迎してくれるのですが、気をつけてくれよと思っています。