143号(2001年09月)5ページ
病院だより 治療と飼育・看護の関係は
皆さんは治療する(cure)という言葉と、看護する、世話をする(care)という言葉をご存知の事かと思います。
治療という言葉を国語の辞書を引いてみると、病気を治すことと書いてあります。つまり、けが人や病人を診察をして、どのような病気か診断を下し、もっとも適した良い方法で病気を治していくと言うことでしょう。次に看護について調べてみると、怪我人や病人の手当・世話をすること書いてあります。つまり、怪我や病気にかかった人の看病や身の回りの世話をすることを言うのでしょうか。
では、今度は英語のcure(キュア)について意味を調べてみると、治療すると言う意味の他にも矯正する、病気が治る、保養する、療養する、保蔵するなどの意味があり、心の救いを表す言葉でもあります。次にケア(care)についてはどうでしょうか。この言葉は最近日本語としても良く耳にします。看護する、世話をする、心配する、気にかける、配慮する、保護する、関心をもつ、責任を持つなどの意味があります。
看護する、看病すると言う意味を持つ言葉には、看護婦という意味のナース(nurse)もあります。この言葉は、ほかにも保護する、哺乳する、育てる、大切にするといった意味もあります。これは飼育、飼養、管理、扶養、飼育する、管理する、保護するなどの意味をもつ言葉でもあるキープ・キーピング(keep・keeping)と似た意味の言葉と言えるでしょう。ちなみに飼育係がキーパー(keeper)と言うことは皆さんご承知の通りです。飼育する人、管理する人、保護する人と言うことでしょうか。スポーツの世界でも用いられるキーパーは、文字通りゴールを守る人で、試合の中で最も手に汗握る瞬間を演出する非常に重要な役目をになっています。
少し分かりづらくなってきましたが、ここまでは、日本語と英語の意味について辞書を引用しながら書いてきましたが、この言葉の意味が指し示しているとおり、治療も看護も飼育もそれぞれが異なった意味を持つ別のもののように思われがちですが、実はそれらの全てが一体となって初めて病気や怪我が治っていくものだと思います。ここまでは治療で、ここからは看護などと分けることは出来ないことだと思います。もちろんそれには大前提として、診察してどのような病気であり怪我なのか診断を下し、薬の処方や怪我の処置をする等の治療を行い、その後の治療方針を立てるという行為が絶対条件であることは言うまでもありません。
最初に治療というのは病気を治すことと書きましたが、患者の病気から治ろうとする気持ちにより積極的に作用するのが、看護、親身に世話をし、心配し、気にかける心というものだと思います。
ターミナルケア(Terminal care)終末医療と言う言葉やホスピス(Hospice)と言う名前を耳にしたことがあると思います。これらの言葉や施設は、末期癌などの重篤な病気の患者さんが、又は患者さんに対して、いかにして人としての尊厳を保ちながら命を全うできるか、病気の治療は勿論、心の安らぎまで環境も含めてあらゆる面から検討され考えられている施設であり、ここには尊厳死という避けて通れない問題があります。ここには安楽死という問題も含まれ、倫理上非常に重い命題を投げかけていると思います。話が深刻な大きな問題になってしまいましたが、この終末医療という言葉こそ、医療といっていますが、相手の気持ちに配慮しながら看護し、世話をしていくことではないでしょうか。キュアには療養する、心の救いを表す言葉といった様な意味も有りますが、正にケアと同じ意味を指す言葉と言えるでしょう。
動物園にいる動物たちは、多くの場合、一生をその動物園の中で暮らすことになります。その為、飼育担当者は毎日の飼育管理を通して、この動物たちの採食方法から習性などあらゆる行動や特窒?熟知することにより、毎日の健康状態の把握が初めて可能となります。その動物との信頼関係を築いて行くことこそキーパーとして最も重要なことだと思います。環境エンリッチメントと言うことがよく言われています。これは簡単に言うと、「いかに動物たちが過ごし易い環境を提供し、ストレスを少なくして健康な状態に保つことが出来るか。」と言うことでしょうか。確かに最近の動物園は、放飼場一つをとってみても工夫が凝らされている様に思えます。これも動物たちのことを知ることにより初めて可能なことではないでしょうか。
(川島 美昭)