114号(1996年11月)8ページ
あらかると 「年の瀬の大騒ぎ」
一年が経つのは早いものです。私は毎年終り頃になるとその一年を振り返るのを常としています。
例年なら、必ず風邪をひいて獣医の世話になるのがいるのですが、年の瀬に入っても世話をしている類人猿に1頭もそのような個体は出ませんでした。
めでたい、めでたいと思っていたそんな心の隙間をつくように、一つの事件が発生してしまいました。
ゴリラのオス、ゴロンの食欲が落ちて餌を残すようになり、しかも食後、ほとんどじっとしていないのです。身の置き所がないようにうろうろと動き回り、ふだん滅多に口にしない水飲み場の水を飲み干してしまいます。メスのトトとふざけることもなくなりました。
観察している間じゅうあまりに動きまわるので、夜間にビデオを回したところ、寝てはいるようなので一安心させてくれました。採尿して検査した結果も異常ありませんでした。
で、しばらく様子を見続けました。食欲はそれ以上悪くはならず、通常の3分の2ぐらいは食べ続けます。担当者、代番の私、獣医、顔を合わせてはどういうことだろう、と話し、互いに首をかしげました。
いっこうに快方に向かう気配がないので、思いきって麻酔をかけて眠らせて血液検査を行なうことになりました。もう一つ、以前より気になっていた歯の様子も見ることにしました。
採血は順調に進みましたが、歯の方は思っていた以上に悪い状態でした。歯石がすごく、子供の頃に放飼場の天井から落ちた際に欠けたと思われる箇所はひどい虫歯になっていました。
他の歯にも被害は広がりつつあるようでした。とりあえず、穴のあいた箇所はつめられ、化膿しても大丈夫なように排膿できるようにして治療は終りました。
眠りから覚めた時、ゴロンにはあまりショックが残っている様子がなくて一安心。その後、数日経つと食欲、行動も以前のゴロンに戻り、結局、虫歯の痛みが原因ということに落ち着きました。
当園では、大型類人猿を眠らせての治療は初めてでした。獣医さんには大変なプレッシャーがかかっていたと思いますが、無事に終了してほっと一息されたでしょう。
しかしながら、今回同様の症状が出たら、もっと根本的な治療が必要となるでしょう。
(池ヶ谷正志)