105号(1995年05月)11ページ
動物病院だより
長〜い梅雨もようやく終りに近づき、暑い夏に向かいますが、体力は大丈夫ですか。
今年も野生で傷ついたり、巣から落ちてしまったヒナたちが次々と動物園に運ばれてきています。そこで、動物病院だけでは対応できないため、事務所に救護所をつくり、ツバメやスズメのヒナ達への餌やりを、事務所で仕事をしている人達にお願いしています。そうした方法で行なうと、事務所の人達が入れ替わりたちかわり餌をやってくれるので、餌やりの回数が増え、巣立ちできるヒナの数もぐっと増えるのです。
園内においても、いろいろな鳥のヒナが誕生し、かわいい姿があちらこちらで見られています。当園で生まれた子供達は、このところ母親から見捨てられ、人工哺育にせざるを得ない状況が多かったのですが、シシオザルに始まり、ワタボウシパンシェ、クロミミマーモセット、ピグミーマーモセット、ジェフロイクモザル、ニホンザルといずれも母親がめんどうをみてくれ、親子でいるほほえましい姿を見ることができ、私達はほっとした気持ちでながめています。
さて、最近治療した動物の話をしましょう。まずは、アフリカタテガミヤマアラシの咬傷についてです。5月11日にアフリカタテガミヤマアラシのオスが、甲府市遊亀公園付属動物園より来園し、動物病院に収容して検疫が行なわれました。
その結果、問題がなかったので5月17日に夜行性動物館に移してメスと同居させてみました。その日はいいかと思ったのですが、翌朝担当者から「ダメだ」と一言。さっそく獣舎に行くと、二頭とも頭部の皮膚がめくれてしまっていたのです。特にオスの方がひどい為、手術することにしました。
まずは麻酔をしなければなりません。ヤマアラシの場合、針がじゃまをしてしまい、直接注射することができないので、吹き矢を使い、ヤマアラシが怒って針を立てたところをねらって投薬しました。
5分ほどして横になったので、すぐに病院に運び傷口をのぞいて見ると、かなり奥まで筋肉が断裂していました。
さっそく縫合手術を行ないしばらく入院させることにしました。メスの方は、傷口に消毒薬をかけ様子をみることにしました。
傷口がなおるまでに、次にどうやるか検討し、展示室のまん中に網を張り、お見合いさせ、2頭の様子を見ながら、同居させることにしました。
6月23日にオスを退院させ、現在お見合い中です。どのくらい時間がかかるかわかりませんが、なんとか同居させたいと思います。それにしても、攻撃するとき、針の少ない頭部をねらうとはすごいものです。
続いてマサイキリンのオスが、6月21日の朝から右前肢に体重をかけなくなり、じっと立っていることが多くなりました。
実は1月17日に、神戸市王子動物園からお借りしているマサイキリンのメス(イク)が左後肢を跛行し始めた為、治療を行ない、このところようやく歩き方もスムースになっていたのです。
オスは、当園で人工哺育して大きくなった個体ですが、やはり患部をさわったりすることはできず、吹き矢を使って投薬をすることにしました。
四月に入った金沢獣医師にとっては、吹き矢での投薬は初めてのことでした。吹き矢の中にどのように薬を入れるか、どのくらい圧をかけたらいいか、それにどのくらいの力を入れて吹いたらよいか、それらは経験が解決してくれるものです。
そこで何はともあれ、やってみること。キリンの大腿部目指し、シュ!投薬で事故が起きてしまったら何にもなりません。吹く瞬間には緊張感があります。
何回かやっているうちに吹く要領がわかってきて、三本の吹き矢で投与するのにそう時間がかからなくなりました。
そうこうしているうちに少しずつ患肢に荷重するようになり、歩き方もスムースになり、早くなってゆき、治療のかいがあったようでほっとしています。
(八木智子)