151号(2003年01月)4ページ
病院だより カルフォルニアアシカ 「グリアン」のダイエット?
その日は突然訪れました。昨年の12月24日「カルフォルニアアシカのオスがある日を境に動作が緩慢となり、餌のサバなどを採食する時、何か様子がいつもと違い食べ方に力が入っていない」と担当の飼育日誌に書かれていました。翌日には、「餌を飲み込む際、かなり苦労している」と記されてた。
現在カルフォルニアアシカは、昭和62年生まれ(16才)の父親グリアンと平成4年生まれ(11才)の母親ミディと平成14年生まれ(1才)の子供の3頭で暮らしています。
年が明け平成15年の正月を迎える頃になっても、動きが稍々緩慢で餌の魚を一度くわえ直してから食べる仕草が続いていた。このため、採食量も少しずつ落ち1月7日頃には、午前午後合わせて8尾しか採食しなくなってきました。この頃の採食状態は、口にくわえ直すが、その後うまく飲み込めず諦めてしまう光景が観察されました。普段ならオス、メス合わせて一日にサバを20kg、アジを四百g程食べていたのが、今では・・・尾
このためか、体付きを見ると少し痩せ、皮膚の張りと艶が落ち、目にも精彩がなくなってきた感じがします。せめてもの救いは、母親や子供は特に異常は見られず元気なことでした。この頃から投薬を開始し始めたが、原因が判明しなければ薬を処方す事が出来ません。口の中、咽に何か異物が刺さったり詰まってはいないか、口の中が腫れていないかと何回となく給餌の時、口の中を観察するが、咽の奥までは見ることが出来ません。こんな時麻酔をかけ、内視鏡で観察できたら いいな・・・。
それよりまず現状の病体から推測出来る処置として、感染症の予防、炎症の緩和等を考慮し、抗生剤、消炎酵素剤、粘膜保護剤等を大きなカプセルに充填し処方することにしました。
水族館等のアシカなどはショーのためトレーニングが出来ているため、直接注射や採血が可能ですが、当園ではある程度の馴致は出来てはいますが、数分間不動の体制をとることは難しく、また体重が200kg以上ともなれば注射もかなりの量となります。
投薬方法は、大きなカプセルをサバの中に埋め込み投薬することにしましたが、ここで問題発生、それは一回に10尾以上を与えても、その内の数尾しか採食してくれないため、確実に規定量の投薬が出来るとは限りません。実際半分量の投薬しかできない日が続きました。そんな苦悶の中、小アジなら小さくてうまく投薬出来るかも知れないと挑戦はしたもののやはりうまく食べれない。サバを輪切りにして試したこともあるが失敗。よくよく観察してみると、口の中に入れ食べたい気持ちはあるのに何故かうまく飲み込めないような状態でした。
投薬方法で一喜一憂していた時、ベテランの獣医が一言・「イカで試したらどう」・この一言アドバイスで今回の危機を乗り越えることができました。最初は一杯、二杯とその量は少しづつ増え、投薬もスムーズにでき、やがて体力の回復と共に薬効の甲斐もあり、サバ入りのイカから小アジ、そしてサバのみの採食とその量も次第に向上してきました。「やれやれ今回の採食不良の原因はいったい何だったろう」と安堵の溜息のみ残り、納まりました。