でっきぶらし(News Paper)

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103号(1995年01月)17ページ

動物園こぼればなし 〜 野生傷病鳥獣の世話をして感じたこと 〜

野生保護傷病鳥獣の世話ということで、病院のお手伝いをして7ヶ月が経ちました。本当にあっという間でした。私が働き始めたのは5月の中旬、鳥のヒナがたくさん保護されて来る頃です。ツバメやスズメは事務所の人達が、仕事の合間に面倒を見ています。ピーッ、ピーッと必死で口を開ける姿がかわいいのでしょうか、一生懸命、餌をあげて育てています。中には、巣立った後もやって来て人間の手から餌をもらうツバメもいます。事務所の人が餌を差し出すと、すーっと飛んで来てさらって行きます。なかなか微笑ましい光景です。
病院へはその他のヒナ達が来ます。朝、ムクドリのケージをのぞき込むと、真っ黄色の口が一斉に開きます。水で柔らかくしたマイナーフード(=市販の九官鳥の餌)を、次から次へと口に押し込みます。そしてムクドリはスクスクと育ちます。しかし、全ての鳥が簡単に育つわけではありません。後藤さん(私が仕事について教わった方です。)曰く、「野生では親鳥が虫やその他いろんなものを与えている。飼育下で与える餌には限界があるから、何かが足りないんだろう。」と。
例えば、ヒヨドリやシジュウカラは、慣れてくれば自分で餌をねだるし、マイナーフードだけでぐんぐん大きくなります。しかし、巣立つ前に死んでしまうのです。そこで、ミルワームという人工的に育てた餌用の幼虫を併用します。すると何とか成鳥になってくれます。現在も、この病院育ちが何羽か居残っています。試してみると結構いろんなものを食べます。虫はもちろん、オレンジ、バナナ、水で柔らかくしたドックフードetc・・・。朝、前日置いて行ったものが無くなっているのを見て、「そうか、こんなものも食べるのね。」なんて発見するのが、私は楽しみでした。いつか、この鳥達が野生に帰った時、自分で餌をとれるのか、ちょっと心配ですが・・・。
病院育ちで心配と言えば、カケスとオナガです。見た目は結構、キレイなんですが、ギャーピー鳴いて騒々しい鳥です。すっかり人に慣れてしまって、餌をもらいに近付いて来ます。オナガに至っては、頭や肩に止まって髪を引っ張るなどのイタズラまでします。傷病鳥獣を「野生」に帰すのが目的で、病院で飼育しているのに困ったことです。
また病院にはタヌキ、ハクビシン、ムササビなどもやって来ます。これらの赤ちゃんにミルクをあげると一生懸命飲みます。とてもかわいいのですが、野生に帰るためには、人間に慣れない方がいいのです。成獣になった時、民家に近付くようでは、いろいろ問題が起きてきます。育てながら複雑な心境でした。ペットを飼うのとは違うのです。
それから、保護した人が「しーちゃん」と名付けたカモシカの赤ちゃんもいました。親について行くための本能なのでしょう、大きな動くものについて歩く習性があります。とても弱々しくて立っているのがやっとでした。体重もなかなか増えず、獣医さん達も気を揉んでいました。ミルクの飲みが良くなるということで、散歩をさせていましたが、少し歩いては立ち止まってしまうという状態でした。しばらくすると、2頭目が保護され、「すーちゃん」と名付けられました。この「すーちゃん」は元気一杯、脚を骨折していたので手術したのですが、かばうこともせずにかけ回っていました。結局、2頭共無事に育ったのですが、獣医さんが言っていました。「すーちゃんがいなかったら、しーちゃんはどうなっていたかわからない。一緒にいて刺激を受けながら育ったのが、リハビリになったのね。」
ここで私は、他にも多くの動物と接することができました。興味深くて、貴重な体験ばかりでした。短期間でしたが、動物園で働けたことを嬉しく思います。最後になりましたが、動物園の方々にはお忙しい中、とてもお世話になりました。ありがとうございました。
(古村緑)

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