154号(2003年07月)5ページ
病院だより/冷や冷やのモモイロペリカン
当園の中央付近に池があるのをご存知でしょうか?。冬になるとその池には野生のカモたちが多数飛来してきますが、そうしたカモ達に混じってひときわ大きな鳥が飼育されています。御覧になったことがありますでしょうか。
その鳥は「モモイロペリカン」といってアフリカ等の湖沼に群をなして生息している鳥で、大きな魚を丸飲みするのが特徴です。
実は1999年5月にオスが死亡してしまい、それ以来メス1羽で寂しそうに暮らしていました。心優しい飼育担当職員からあのまま1羽で生涯を過ごさせるのは余りにも可愛そうでだから気の優しいオスを是非とも導入してくれないかと依頼を受けていましたが、国内からの導入は難しく、やむなく海外にその入手の範囲を求めていたところでした。しかし海外からの導入には大きな問題がありました。ペリカン1羽のみですから輸送経費がとても高くなってしまうのです。他の鳥類や動物を一緒にアフリカから輸送すれば少なくとも1羽当たりの輸送経費はかなり安くなるのです。その時期を私達は首を長くチャンスを逃さないように待っていたのです。だから導入までかなりの月日を要したのです。
そして、今年7月30日に待望のオスのモモイロペリカンが来園しました。導入する個体は性成熟し、気の優しい性格の個体を希望したのですが何とびっくり。来園時、小さな輸送箱に収まり、外観からは小さな幼弱個体じゃないかと一時はがっかり、ところが輸送箱を覗くと長い首は背中の方に押し曲げ、嘴は箱の角から角一杯に何とも上手く収納されていました。そして太い足を器用に折り曲げウンチだらけの箱の底に体を浸けるようにしていたのです。このため羽根がウンチで汚れ灰色ペリカンかな?と思うくらいでした。やがてプールに入り羽づくろいをしている内に名前のごとく薄ピンク色をした美鳥になってきました。餌のアジを投げると、口で上手にキャッチングすることも直ぐに覚えてくれました。
やがて検疫も終盤を迎える頃、大きな山場を迎えようとしています。モモイロペリカンを放鳥する場所は、園内中心にある池です。池の周囲には、高さ60cmの柵がありのみで、あの大きな羽根で羽ばたけば柵を一飛び越え大空に飛び立ってしまうでしょう。もしそんなことになれば大騒ぎ。このため飛び立てないように羽根に細工をするのです。今回は当園では初めての手法術で翼先端の指屈靱帯を切断して見た目は何ら変化もなく、しかし飛翔できないことを目的としたし処置でした。(内心かなりの不安があります)
やがて検疫合格、池に放鳥したのですが、数日後の昼食時担当者から緊急無線連絡、「モモイロペリカンが道路を歩いています。」一瞬「靱帯切除術が失敗か?」と嫌な想いが脳裏を過ぎりました。現場に行くと確かにペリカンの「カッター君」が柵越しに道路を優々歩いていました。遙か湖面ではメスが心配してか、右往左往。バスタオル片手に二人で追いつめるといとも簡単に柵を越え急斜面を一目散に駆け下り無事メスの所に戻っていきました。
これからが思いやられるな・・・・。
ちなみに、オスはメスよりも体格、嘴などが一回り大きいから一目で判ります。仲良く寄り添って泳ぐ姿を見ると心が和みますよ! (海野隆至)