158号(2004年03月)4ページ
エースの独り立ち
午後3時頃になるとプールの前には人だかりが出来る動物・・・そうカリフォルニアアシカです。今回は彼らの状況をちょっとお話しします。現在当園には。オスの「グリアン」とメスの「ミディ」夫婦が生活しています。グリアンはとってもおおらかな人なつっこい性格ですが、ミディはちょっと気まぐれで、何が気に入らないのか、突然ぷいっと餌を食べなくなったりするアシカです。
ミディのこうした性格のそのせいでしょうか、子育ても、出産当初は面倒みていたもののその後育児放棄をしてしまい、最初の子と2頭目の子は途中から人工保育をせざるを得ないといった困ったお母さんでした。しかし3頭目、4頭目と子育ての経験を踏んでいくにつれ、ミディは徐々に子育て上手なお母さんになってきました。昨年7月1日に生まれた5番目の子供である「エース」に対しても、ミディは泳ぎ始めのエースをかばいながらそばで泳いでいました。
そうして順調に大きくなってきていたエースを含め彼らの担当に私がなったのは、昨年10月でした。ご存じのようにアシカは私たちと同じ哺乳類、下腹の所に4つ乳頭があり、お乳を飲んで大きくなります。そして半年を過ぎる頃から離乳が始まっていきます。私が担当になった時期はまさしくこれから始めようかという時期でしたし、お母さんの気まぐれで突然育児放棄したらどうしようかと不安がありました。しかし、新米の私に対しても、グリアンもミディも普段どおりに接してくれ、ミディはエースに対してもお乳を与え続けてくれました。
エースの離乳作業は11月中旬頃より金魚を泳がせ、エースが追いかけて遊ぶことから始めました。その後コイも与えてみましたが、かみ殺すだけでなかなか食べるところまではいきませんでした。12月に入り、イカを与えてみたところ、最初は咬んでいましたが、その後つるりと食べたのです。これで一歩前進でした。しかし、なかなか小アジやサバには関心を示してくれませんでした。イカは親にとっても大好物!エースに与えることが判るとそれを親たちも待っている状況となり、親に気付かれずにうまくエースにイカを与えられるかがドキドキものでした。
さらに今回は2月にアシカ池の防水工事が組まれていました。アシカが居る中での防水工事となり、体調を崩さないだろうか、離乳作業はどうしようかと不安でした。工事は大プールから始めるため3頭を小プールに閉じこめ、工事に支障のない程度に水を張っての飼育となりました。ところが塗装の臭いがきつく、嘔吐。しかしどうするわけにもいかず、臭いが抜け、彼らの体力に頼るしかありませんでした。
小プールに居る間は水が少ないこともあり、体調は今一でしたが、大プールの工事が終わり、小プールより移動させたところ、やれやれといった感じでしょうか、食欲も戻ってきてくれました。しかし、工事はまだ半分の状況で、親とエースの距離をなかなかとれず、離乳作業はさっぱり進みませんでした。2週間おきに体重測定をして、増加しているのを確認すると「ミディ、もうちょっとだからがんばってお乳をあげてね!」と祈る気持でした。
3月末にようやく工事は終了しました。そこで、エースの本格的離乳作業が始まりました。親と同じサバを与え、最初は関心がなかったものの、そのうちにくわえては投げるようになり、4月11日に初めて飲み込むのを確認することが出来ました。そして21日にサバを朝6尾、夕方8尾本格的に食べてくれたのです。これでようやく彼女も一人前のアシカになりました。
しっかりと採食するようになったため4月26日にはミディとも離し、小プールでの一人暮らしを始めました。実は父親のグリアンはブリーディングローン(繁殖目的の為の動物貸借契約)で鴨川シーワールドから借りている個体なのです。そしてエースは鴨川シーワールドに所有権が有り、もうじきそちらに行くことになっています。
工事の間もエースを育て続けてくれたミディに感謝し、エースに対しても無事ここまで育ってくれたことに「ありがとう」と言いたいです。
(八木智子)