162号(2004年11月)4ページ
3匹の子トラちゃん 待望のデビュー!
皆さんお待たせしました。いよいよ3匹の子トラちゃんが待望のデビューです。公開は新年最初の開園日、1月2日から始まりました。2005年のスタートからこのような3匹の子トラちゃんのやんちゃで遊び盛りな、本当にかわいらしいしぐさをたくさんのお客様に見てもらうことができ、担当の私としてはまさに「飼育冥利(みょうり)に尽きる」という感じであります。
母親のナナは今回が6回目の出産でした。今までの4回は出産してからわずか3日くらいの間に子供が死んでしまうという最悪の結果に終わっており、その主な原因としてはナナが生んだ子供をくわえる際、力の入れ方が判らなかったのか、子供を強くくわえすぎてしまい、内出血で死亡というケースがほとんどでした。残りの1回は昨年私が人工保育で育てたシマジロウ(現在、富士サファリパークで元気に暮らしています)で、このときも出産後にナナは落ち着かず、子供をくわえてあっちにフラフラ、こっちにフラフラととても授乳する様子がなかったため、その日のうちに子供をナナから離し、人工保育にしました。
そこで、今回は今までの失敗の反省を踏まえていくつかの改善を試みました。その主になるのが部屋の引っ越しでした。それまで住んでいた部屋は♂のトシと隣り合わせの部屋で、その間の窓をベニヤ板で隠しても、隣りにトシがいるとどうしてもそわそわとして落ち着かない様子でした。そこで、一番奥の空き部屋にナナを移してトシとの間に空き部屋を設け、ナナを極力安静でくつろげる状態にするよう努めました。
このように今回は万全の出産体制を整えていたつもりでした。が、しかしながら・・・裏話なのですが、とんでもないミスを私は犯してしまいました。それは出産予定日(トラの妊娠期間は約100日)を2日過ぎた日のこと、後で考えればもういつ出産してもおかしくない状態であったにも関わらず、まだナナの様子も特別変化がなかったため、前日与えた餌が少し残してあったので部屋の清掃をしなければと一度ナナを通路へ出し室内を清掃しました。その後、ナナを部屋に入れようとしましたが、ナナは一考に部屋に戻ってくれません。仕方がないので後でまた入れようとその場を一旦離れ、一時間半程してまた戻ると、どこからか「ミャア」 という聞き慣れない怪しい声。はじめは同じ棟に住んでいるピューマのメスの声と思い「おいおい、びっくりさせるなよ」とほっとしたのもつかの間、また一歩階段を上り部屋の方へ向かうと、またもや「ミャアー」という声。今度は完全に今ナナがいる通路の方から鳴き声が聞こえてきました。まさか・・・!?
そのまさかでした。通路内は真っ暗で何も見えませんでしたが、「ミャア」というその声は、ナナの声とは明らかに違う、紛れもない子トラの鳴き声でした。私がその場を離れているうちに、何も出産準備ができていない通路内でナナは出産してしまったのです。今まで5回も落ち着かない状況での出産で失敗してきたので、今回は万全と思っていたはずが・・・。「ミャアミャア」という声を聞きながら、「ナナのバカバカ」とついついナナに当たってしまいました(ナナちゃんごめんね、僕の方が悪いです)。それから獣 医さんといろいろ なケースを想定し ながら話し合い、 とにかく子供を人 間の手で捕まえて でも寝室に戻さね ばということにな りました。ナナが 生んだ子供を自分 で寝室に運んでく れればそれがベス トでしたが、とて もそんな感じはあ りません。仕方が ないので他の部屋 にナナをなんとか 入れ、まさに文字 通り「虎穴に入ら ずんば虎児を得ず」状態で、私が虎穴、いや通路に潜り子トラを捕まえようと手を伸ばすと、1つ、2つ、んー・・・3つ!?なんと子供は3匹もいたのです。今回、ナナのお腹のふくらみは見た目大きくなかったので、おそらく子供は1〜2頭と思っていましたが、まさか三つ子だったとは・・・。三つ子を抱えて通路から寝室へと運び、次にナナを子供のいる寝室に移しました。 今まで5回も落ち着かない状態で出産に失敗してしまっていたのに、今回またこんなドタバタした状態で果たしてナナが子供の面倒をみれるのか?冷や冷やしながらそっと様子を見ていると、またもやナナが子供をくわえてウロウロする仕草が・・・。もうこちらは胃がよじ切れるような、寿命が縮まる思いでした。しかし、もうこうなったらあとはナナの母性愛に任せるしかありません。とにかくそっと安静にしておきました。それからナナは、6回目の出産ということもあってかこんな状態であったにも関わらず落ち着きを取り戻し、見事授乳に成功!3匹の子トラがしっかりとナナのお腹にくっつきおっぱいを吸っている姿を見た時には本当に感無量でした。
今、こうしてお客様の前にお披露目できるまでには、母子と担当者の間にはその後いくつもの試練や難題が待ち受けていましたが、それらを見事にクリアし、無事ここまで成長してくれました。母親のナナも以前のあどけない顔から、今では立派な母親の顔へとなってきました。
3匹の名前は公募で男の子は「スルガ」くん、女の子は「アオイ」ちゃんと「マリン」ちゃんになりました。これは4月から政令市になる静岡市の3区の名前からきています。清水の方々には本当に申し訳なかったのですが、清水にちなんだマリンちゃんになりましたので、どうぞかわいがってあげてください。この3匹は早くも全国のいくつかの動物園から、是非欲しいというオファーがきていますので、政令市となる静岡市から全国へと、情報発信の一幕にもなってくれれば本当に嬉しく喜ばしいことです。
どうぞ皆さん、是非3匹の子トラちゃんに会いに来て下さいね。やんちゃで遊び盛りの子供達が待ってるよ!(松永 亨)