166号(2005年07月)5ページ
動物園実習だより 獣医実習を終えて
鹿児島大学農学部獣医学科 時森麻紀子
8月8〜21日の2週間、獣医実習をさせていただいたのですが、実習の始まる前には長いと思っていたこの2週間はあっという間に過ぎてしまいました。
実習内容は、午前中に動物病院内の動物の世話を行い、午後には獣医さんに付いて仕事体験をさせていただくというものでした。
獣医さんの仕事は、朝夕の巡回を除き、基本的に日によってすることが違います。それは、それぞれの動物の変化に応じてその時々で対応していかなければならないからです。そのため私も、獣医さんの後ろに金魚の糞の様にくっつききながら、様々な仕事を体験させていただきました。ある時は、ライオンの退院につきそい、またある時はユキヒョウの手術に立ち会うなど、多くの貴重な経験をさせて頂きました。
私はまだ3年生なので、獣医の臨床的知識は殆どなかったのですが、実際に採血をしたり、ビタミン剤を筋肉注射したり、オオアリクイの糞から菌の同定をしたりと、臨床的なことも沢山体験させて頂きました。それらは、学校で勉強したことを更に発展させて行うことだったため、日ごろ頃の自分の勉強不足も痛感させられ、基礎的なこともしっかり勉強しなければと自分に喝をいれることもできました。
しかし実習は楽しいことばかりではありません。獣医師として、時にはつらい選択を強いられることもあります。動物病院には、毎日のように道端などで保護された野生動物が保護されてきます。その多くが鳥類です。私の実習中にも沢山の動物たちが保護されてきたのですが、中には治療の施しようのない個体もいます。
そこで最終決断の末、獣医さんはその子たちを安楽死する事もあります。治療もできない、ましてや自然界で生存することが難しい時、彼らを少しでも早く苦しみから解放するため安楽死が行われるのです。私も、目を負傷し衰弱したすずめの安楽死を行いました。せめて天国では、自由に飛び回っていてほしいと願っています。
他にも数多くの体験をさせていただいたのですが、ここですべてを記載することは困難なため、最後に一番心に残ったことについて触れようと思います。1つ目は、朝夕の巡回の大切さです。異常な状態を知るには、正常な状態を頭に叩き込むことが何より重要なのだそうです。正常な状態を知らなければ、何がいつもと違うのか、どういうときが異常なのかさえ判断できないからです。
特に動物園にはあらゆる種類の動物がいるため、それぞれの個体の特性をすべて細かく把握することは非常に困難です。しかし、毎日の個体の様子を頭にいれておけば、「この子はなんだかいつもと様子が違うぞ。」といったように異変に気づくことができ、そこから病気の早期発見も可能となるわけです。例えば、小型サル舎の中にはいつも下痢の様な未消化便をする種類がいるのですが、もしも毎日巡回していなければそういった特徴にも気づかず、お腹が悪いのだと誤診をしてしまう可能性もあるのです。
2つ目は、飼育係さんとの信頼関係の大切さです。飼育係さんと毎日話をすることで、動物たちの性格や毎日の様子を知ることができるだけでなく、獣医さんとは違う視点から動物を見ることで、時には病気の早期発見の手がかりを得られることもあるそうです。また、飼育係さんと話すことで多くのことが学べるのだといいます。
この実習を通して、動物園獣医師の大変さを改めて実感させられました。動物に対する思いやりや体力だけでなく、人間性も大変重要であることを知り、当たり前のことのように思っていたことが実はとても重要であることに驚きました。また、7年間も勤めていらっしゃる獣医さんでさえ毎日が驚きの連続であるとおっしゃっており、動物園の仕事は本当に奥が深く、数年やそこらで一人前にはなれないのだと感じ、ますます動物園獣医師への憧れが増しました。
私も、将来憧れの動物園獣医師になれることを夢見て、日々勉強に励みたいと考えています。そしてこの実習で感じた気持ちを、ずっと大切に持ち続けたいと思っています。
職員の皆さん、本当にありがとうございました。