でっきぶらし(News Paper)

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172号(2006年10月)10ページ

病院だより シシオザルのゴッドマザー 〜チュリナ、ご苦労さまでし

今回は、中型サル舎の大家族!顔のたてがみとフサフサな尾が特徴的な、シシオザルのお話です。
当園のシシオザルの家族を紹介します。時には厳しく時には優しいお父さんの「ペペ」。子育て上手なベテランお母さんの「チュリナ」。そしてやんちゃ盛りな子供たち「パセリ、ルキ、テト」です。

ペペとチュリナは、平成2年にカナダの動物園から来園した、今年21歳になる熟年夫婦です。シシオザルは生息地のインドで絶滅の危機に瀕している希少種ですが、チュリナは今までに11頭を出産し、種の保存に大変貢献している功労者でもあります。

そんなチュリナにとって、今年の春に悲しい出来事がありました。生後順調に育っていると思われた第11子の「アーちゃん」が、生後1ヶ月を過ぎた頃に亡くなってしまったのです。もしかしたらお乳の出が悪かったかもしれない、と一同不安がよぎりました。

それから数ヶ月が過ぎた9月4日、チュリナは第12子を出産しました。日中しばらく観察を続けていましたが、胸に抱っこされた赤ちゃんはお乳に吸いついていますが出ていない様子です。そのまま放っておけば死んでしまいます。意を決してチュリナを捕獲して調べてみたところ、やはりお乳が出ていませんでした。やむを得ず赤ちゃんを取り上げ、飼育係が母親代わりになって動物の赤ちゃんを育てる「人工哺育」をすることになりました。

生まれた赤ちゃんは男の子で、生息地の西ガーツ山脈にちなんで「ガッツ」と名付けました。つぶらな瞳でまだ頭の毛は短く愛嬌があります。1日に5回人用の人工乳を哺乳瓶であげています。最近ではつかまり立ちをして動き回るようになり、スクスクと育っています。

チュリナも産後の体調不良から回復し、元気に暮らしています。これ以上出産することは彼女の体に大きな負担をかけてしまうので、薬を体に埋め込んで今後の繁殖は控えることにしました。

人工哺育は動物にとって決して好ましいことではありません。私たち飼育係がいくら手を尽くしても、本当の親から学ぶべきいろいろなことを教えてあげることができないからです。しかし、せっかくこの世に生をうけた赤ちゃんをみすみす死なせるわけにはいきませんでした。お母さんのチュリナに代わってガッツの成長を近くで見守っていきたいと思います。

(野村 愛)

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