でっきぶらし(News Paper)

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182号(2008年06月)6ページ

病院だより  ピヨピヨ!春のヒナまつり  

4月、動物病院の孵卵器の中は大にぎわい。園内のフライングケージや池からやってきたいろいろな大きさのいろいろな鳥の卵がぎっしりです。

抱卵されていない卵や何者かに巣箱から転がり出された卵、カラスやヘビに狙われ救出された卵等。オシドリ、ツクシガモ、カルガモ、カナダガン、ずらり並んだ卵の成長を検卵器でチェックするのも日課になります。

検卵器は卵に光を当てて、中身を透かして観察する仕組みです。全体がうすいオレンジ色でぼんやりしているもの。これは無精卵で孵化しません。オレンジ色と黄色い部分が分かれているけれどそのままのものは、中でヒナが成長を始めてしばらくして死んでしまった状態。

途中で死んでしまったものは中止卵といいます。黒っぽい模様が見えるもの、よく見ると血管が張り巡らされて成長している様子がわかるようになります。だんだん、この黒い部分が増えていきます。
 
卵を孵卵器に入れる時、それぞれの鳥の抱卵日数から孵化予定日を計算します。親が抱卵する場合、何日かかけて卵を産み、産み終わってまとめて抱卵を開始する鳥が多いです。

一番最初に産まれた卵はその数日間成長を開始せず待っているんです。不思議ですよね。なので、人工孵化させる場合は孵卵器に入れた日を抱卵開始日としています。孵化予定日が近づく卵があると、なんだかソワソワしてちょこちょこ孵卵器をのぞきに行ってしまいます。

はしうちといって、卵の中からヒナが殻をつつき出すと、自動転卵している回転台から卵を降ろし引き続きあと一息の孵化を待ちます。

さてこの日も、朝はしうちを確認していたツクシガモの卵が昼間に孵り、夕方には育雛ケージでかわいくピヨピヨしていました。同じ孵化予定日のもうひとつのツクシガモの卵もはしうちが始まっていたので、「明日の朝には孵化してるだろうね」と言い先輩獣医師は私より一足先に帰りました。

帰り際、孵卵器を開けると、「ピヨピヨ!」卵の中から頑張るヒナの鳴き声が聞こえてきます。「わわ!」のぞき込むと、一周丸く突かれた卵の鈍端がペコペコ動いています。「う!産まれるぅ!」開け放した孵卵器の前でなぜか一人でジタバタし、ハッと「開けっ放しだった!」と、扉を閉め、なぜか深呼吸し落ち着きを取り戻し(た、つもり?)、もう一度孵卵器を開けてのぞくと、「よいしょ、よいしょ」少しずつ鈍端のフタ部分が持ち上げられていきます。

「頑張れ、あと少し!」卵の中のヒナに声をかけます。少し持ち上げては休み、また少しと何回か繰り返し、「えいっ」こてん、とヒナが出てきました。「やったぁ!おめでとう」ヒナの孵化にラッキーにも立ち会ってしまいました。

産まれたばかりのヒナは頭にかぶった帽子のフタを少し休んでは動かし、殻から上手に全身を出します。ぐったりとしていてこんなにかよわく見えるにもかかわらず、自力でこうして殻を破って出てきた姿に、「強いなぁ、すごいな」と感動してしまいます。

じっとその様子に見入っていて、ハッと気づきました。「私って、この子が世界で最初に見たものでは!?」刷り込みという言葉、みなさんもご存知ですよね?鳥が産まれて最初に見た動く物を親と認識する現象です。

思わず休んでいるヒナに、「初めまして」と自己アピールし、ニヤニヤしながら先に産まれたもう一羽が休んでいるケージにそっと移し、「明日私にピヨピヨ言ってきたらどうしよう」などと思いながら帰りました。

翌日、「おはよう」と育雛室の扉を開けると、ササッ昨夜のヒナがもう一羽と一緒に私から逃げて隠れてしまったではありませんか!「え・・」そうですよね、一晩一緒にいたわけでもなく、エサを与えたでもなければ私のことなど認識するはずもありません。

納得しつつ、がっかりしつつ仕事にとりかかりました。その後先輩から、「昨日の夜産まれたヒナ、ツクシガモじゃなくてカルガモだったね」と言われ、「えぇ!」確かに、先に産まれたツクシガモより一回り小さく、色も違う。

さらに、それからヒナの成長の様子を見ていて病院の飼育員さんが、「あのヒナオシドリみたいですよ」「ええぇ!」「顔がオシドリっぽくなってきたよ」ツクシガモの巣箱付近で同じ時に転がっていた卵だからどちらもツクシガモの卵と思い込んでいましたが、違ったんですね。どこから転がってきたのでしょう。
 
その後も何羽か孵化し、育雛室はヒナでいっぱいです。みんな、私を見るとササッ急いで隠れてくれます。元気に育ってくれているので十分です。
(長倉 綾子)

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