でっきぶらし(News Paper)

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183号(2008年08月)5ページ

動物病院便り 引っ越しシーズン

6月は動物たちの引っ越しシーズンでした。7月から始まった猛獣館建設工事のための猛獣達のお引っ越しです。

第1号は、シンリンオオカミのサクラ。麻酔をかけることなく輸送用の箱に前日から入り、翌朝トラックに積まれ群馬サファリパークへお嫁に行きました。

翌週第2号はジャガーのアラシとキコ。園内の猛獣舎からクマ舎へのお引っ越し。2頭は麻酔をかけて眠っている間に移動です。

獣舎で麻酔をかける時に必要なもの、それは吹き矢。注射ポンプと針を改造したものに麻酔薬を仕込みます。おしり目がけて「プッ」と一吹き。なのですが、動く動物に一発命中は難しいし、麻酔薬の効きは動物一頭一頭に差があり予測した量でスッと効いたり、いくら打っても効かなかったり。

動物病院では、麻酔前日は「う〜ん」院長を中心にみんなで悩みます。推定体重、動物の状態、過去のデータ、他の動物園での記録、様々な手掛かりを元にいくつも計算をし、「これでいくぞ」と導き出す値には決断力が必要です。

アラシとキコは今回が初麻酔のため、2頭がそれぞれどんなかかり具合になるかは全く予測できませんでした。実は私も初麻酔参加。誰よりも予測がつかない分緊張して、前夜はしっかりとお酒を飲んでしまいました。
 
ドキドキの当日。アラシ君、キコちゃんお見事。麻酔の導入から覚醒までとてもスムーズでした。麻酔が確実に効いて、目や耳の反射、体の動きがなくなったことを確認すると、静かに獣舎に入ります。体全体をネットでくるみ、普段できない採血や体の各部分のサイズ計測、体重測定などを素早く行います。

それにしても、ジャガーの毛並みのなんてなめらかなこと。「せーのっ」ネットでくるんだ体を飼育員さん達と息を合わせ獣舎から運び出します。移動用の箱に入れ、トラックで新居へ。

新しい部屋に運び入れ、ネットを外し、麻酔と呼吸の状態を再確認し麻酔覚ます注射を打ちます。数分後、「ピクン」かすかに足が動きます。時間をかけて少しずつ体の各部を動かし、起こし、よろよろと立ちあがります。

麻酔をかけている間は時間を計り、動物の状態、呼吸数などを常に記録します。完全に麻酔から覚めるまで動物の観察を続けます。

こんな具合に無事終了でほっとする間もなく、第3号はピューマのリンカーンとエリザベスの猛獣舎からクマ舎への引っ越し、第4号にピューマの子マリーのとべ動物園へのお嫁入り、そんな合間に飛び入り第5号ピューマの子マロンが怪我のため入院手術が続き、少しほっとした後第6号は麻酔の効きが悪いと大評判のブチハイエナのツキのクマ舎からオオカミ舎への引っ越しと直後に大物第7号のアムールトラのトシとナナ。

2頭は新猛獣舎が完成するまでアドベンチャーワールドに預かってもらいます。大物続きのラスト第8号はライオンのキングとエンジェルの猛獣舎からお隣オオカミ舎への引っ越し。

たった一ヶ月程の間に園内の動物大移動でした。マリー、キング、エンジェルは麻酔をかけず上手に箱に入り、心配したツキは驚くほどすんなり麻酔がかかり、トシは10人がかりでも重たくて、私にとっては密度の濃い学ぶことの多い一ヶ月でした。

新居へ移った動物たちは少しずつ新しい環境になじみ、みなさんに会えるようになってきています。
 
さて、新猛獣館が完成し動物たちが入居するときには私たち獣医師の麻酔の腕ももっと上がっているように、毎日動物たちとじっくり向き会い、経験勉強を重ねていきたいです。
(長倉 綾子)

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