でっきぶらし(News Paper)

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185号(2008年10月)5ページ

<くつしたのチチカカ>

「ムチャチャのつぶやき」でお馴染みのオオアリクイのムチャチャのだんなさんチチカカがこの夏から体調を崩し今も毎日治療を続けています。

夏の始めの暑くなり出した頃、少しずつ食欲が落ち、餌を残す量が日に日に増えてきました。元気もなくなり寝ている時間も多い。それに合わせて下痢便。糞便検査をしていろいろ薬を処方したのですが、食欲がないため餌に薬を混ぜても飲んでもらえません。

少しでも餌を食べて体力をつけてもらいたい時に餌に薬を混ぜる方法は逆効果。そこで、大好きな生卵などを餌とは別に与えその中に薬も混ぜる・・など試すも手を、いえ舌をつけず。

食欲はどんどん落ち、五分の一残した餌が、半分残し、ついには五分の一しか食べず、ほんの少しなめておしまいの日もありました。

一日のほとんどを寝たきりで過ごすようになってしまったチチカカ。水を飲もうと立ち上がり歩き出すと、フラフラ・・なんと力なくよろけてしまいました。その後、嘔吐。「まさか!!」もう、様子を見ながらの治療には限界があります。

水は飲むので、点滴成分を粉にしたものを飲み水に混ぜ、薬は思い切って注射に切り替えることにしました。

チチカカは力強さが自慢です。擦り傷などを治療したくて寝室に入ろうとするだけでいつも前足を振り上げ威嚇をしてきました。針なんて刺そうものなら、こちらが前足の鋭い爪に刺されます。「試しにやるしかない。」と、寝室に入り、寝ているチチカカに近づき、思い切って注射。違和感を感じ、体を起こそうとするもなんとか注射成功。

「そんな・・」我慢して注射させてくれたわけではもちろんありません。抵抗する力がないのです。ショックを受けながらも、朝夕のチチカカへの注射が始まりました。日によってはチチカカも抵抗し、逃げ回ることもあります。

一番痛がらない場所を探し、脇の下あたりの皮膚のたるみの大きい場所へ注射器を刺し、歩きまわるチチカカについて回ります。

太い注射器で、様々な栄養剤や代謝を良くする薬、下痢止めなどを大量に。注射はひと月以上続きました。ある時、水に混ぜた点滴薬を粉のポカリスエットに変えてみたところ、「ゴクゴク一気に飲み干した!」担当者からの嬉しい声。

餌も食べる量が増え始め、便も日によっては少し固まりがあったり。ゆっくりゆっくりと回復の兆しが見えてきました。と、思いきや。床に出血の跡。

いつもなら外で土遊びをしたりシャワーを浴びたりと夏を満喫するチチカカ。この夏は、すっかり室内で過ごし秋を迎えていました。やせて、筋肉も衰え、歩きまわるのはコンクリートの寝室。

やっと、食欲が出てきて喜んだのも束の間。足の裏が擦り切れて傷が数か所できていました。
イソジンで消毒をしますが、下痢便を踏んでしまうので傷口が乾きません。

痛々しく足をひきずります。そこで足にテーピングを始めました。けれど、やはり足が汚れて外れてしまいます。

傷口を汚さず足を保護する方法。考え付いたのが「くつした」でした。先輩獣医が始めは自分の靴下をはかせたところ、大きすぎ。そこで、幼稚園に通う娘さんのお古をもらってきてはかせたところ、ピッタリ!クマさんやウサギさんの絵のついたかわいいちいさな靴下で歩き回るチチカカ。

いくらか歩きやすくなった様です。裏庭で体力作りのお散歩もできるようになってきました。

毎朝、チチカカの靴下を変えるのが日課です。飼育員さんは汚れた靴下を丁寧に手洗いしてくれます。けれど、アリクイの足に人間の靴下です。あっという間に穴があいて、ボロボロに。「靴下が足りない!」先輩は幼稚園のお友達のお母さん達にお願いしてくれました。

おかげで小さなかわいい靴下がたくさん集まりました。ご協力くださったみなさま、ありがとうございます。毎日チチカカの治療に使わせていただいています。「今日はどれにしようかな?」アリクイ舎で朝、ズラリ干されたかわいい靴下の中から今日の一足を選ぶのが実は小さな楽しみです。

チチカカは食欲は戻ったものの、下痢はなかなか治りません。靴下は逃げ回るのを追いかけながら履かせています。かわいい靴下に支えられて、チチカカが完治できるよう、より治療に専念していきたいと思っています。

チチカカの威嚇のポーズが復活できるよう、みなさんどうぞ応援して下さい。
(長倉 綾子)

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