196号(2010年10月)3ページ
ライオン「キング」の狂うほどの不安
猛獣館の2階にあるライオン家族のお話。
ライオンの雄のキング(10歳)が5年間連れ添った先妻に先立たれ、その後1年2カ月のやもめ暮らし、先妻は気が強かったが2頭は仲が良かったと聞いています。
猛獣館の開館に合わせてひなまつりの3月3日に来園した4歳のマッチとムールの2頭のメス。
丸顔にモンローウォークで色っぽいマッチと面長の少しガサツさがあるムール、とくにキングはマッチがお気に入りになりました。
新しい家族ができ、しかもその頂点に立つ、とにかく有頂天のキング。
愛の営みが増え、この家族を「守らなくければ」の責任感?と重責感?で荒れているというよりは狂っているかのようなの単純な行動。
夕方の入舎時が大変。
「愛する新妻が誰かに取られちゃう、盗まれちゃう」
不安の矛先が飼育員である私に
シュート(動物専用の寝室へ続く出入り口)を開けじっと待つ。
放飼場でキングは雌とシュートの間に居座る。客にも威嚇し、にらみつけ強化ガラスをたたきまわり吠えまくる。雌が部屋に入りたがりシュート近くに移動してくる。
シュートを開けじっと待つ。
気の長いほうの私だが、安全上、閉園までに入舎してくれないと困る。
後の仕事を考え時間がなくもう限度、キングを大声で呼ぶ。
キングが「邪魔だ、邪魔だ、あっちへ行け」と向かってくる。
シュートの入り口に顔を突っ込み上目で吠えまくる。
興奮の極みに達し、動物用誘導通路上のグレーチングが浮き上がるほどの勢いで攻撃してくる。たぶん本人は何が何なのか分からなくなってしまっているのでは!
中に入ってくれないため誘導通路のシュートを閉められない。
そこで秘策を考える。
飼育員が1人の場合は誘導通路上のグレーチングの上に、あたかも人がいるように長靴を置き、キングがそこに威嚇しに行って中に入った時に一気に閉める。
これも、最初はうまくいったが何回も同じことをやると見透かれてしまう。
秘策第2段、飼育員の相棒との共同作業。
一人がシュート付近に身を潜め、もう一人がグレーチングの上で吠えまくる。失礼、キングを大声で呼ぶ。それをめがけて中に入ってきたところを、身をひそめた私がシュートを閉める。これが今まではうまくいっている。お客様からは見えない光景であり、見てもらいたくない場面でもあります。
キングは入舎してからも怒りが収まらず吠えまくる。
2頭のメスが発情するたびにこれでは先が思いやられます。秘策第3段が必要になるかもしれません。何か良い方法がないでしょうか?
ギョギョ、さらに 新たな問題が、ムールとマッチの仁義なき闘い「2頭のメス同士の権力争い」が勃発。ヤレヤレ・・・
飼育担当 川村 敏朗