231号(2016年08月)6ページ
病院だより『宇宙人のような獣医』
今年はサル年だけあって、動物園内のサルが出産ラッシュを迎えています。2月はワオキツネザル、3月はコモンマーモセット、4月はアカテタマリン2頭とアビシニアコロブス、5月はクロミミマーモセット2頭、6月はブラッザグエノン(第228号参照)と続きました。残念ながら生まれてまもなく死んでしまった仔もいますが、かわいいサルの赤ちゃんを園内でたくさん見られて嬉しい限りです。
無事にすくすく育っていくのはすごく楽しみなのですが、これらのサルを含めた動物たちは成長していくと、誰が誰なのか顔を見てもわからなくなってしまうことがよくあります(群れの中では特に)。そのため、産まれて数ヶ月たった子どもには、個体識別のためにマイクロチップという小型の機械のようなものを体に埋め込みます。これが入っている動物の体に、マイクロチップリーダーというアイロンのような形をした機械をあててボタンを押すと、「ピッ」という音とともに識別番号が表示されます。こうすることによって、その動物がいつ生まれた誰なのか調べることができるのです。ペット業界では、迷子のイヌ・ネコをみつけるために全国で使われています。ちなみにマイクロチップは、太さ2mm、長さ1cmぐらいの細長い棒のような物で、どんな動物でも体の大きさに関係なく1つを首~背中のあたりの皮下(皮膚の下)に入れます。…ということは、ホッキョクグマからピグミーマーモセットの子どもまで、同じ大きさの物を体に入れるということです。なんだか不公平ですよね。
特に、出産数の多い小型サルは、性別判定(ある程度育ってからオスかメスか調べる)と一緒に毎年何回かマイクロチップを入れる機会があるのですが、私のようなガラスの心を持った獣医にとっては、これがとっても心が痛む作業なのです。先日、クロミミマーモセットとアカテタマリンの子ども6頭にマイクロチップを入れることになり、タモふり倶楽部(第230号参照)部員の獣医師3名と飼育員が、悪戦苦闘しながら目的の子どもだけを捕獲しました。強い絆を持った両親やきょうだいの反撃にあいましたが、優秀な飼育員がほとんど捕獲に成功!1頭ずつ保定して(動かないように持って)、背中の皮をつまんでたるみを作って、そこにちょっと太い注射器のようなものをブスっと刺してマイクロチップを押し出して入れます。この時、たまにこの世の終わりのごとき声で鳴きまくる子もいますが、たいていは我慢しておとなしくしてくれます。本当にごめんなさい。もうしません(あなたには)。ちなみに、この時の大きさの感覚としては、人間の首の後ろに缶コーヒーの缶を1本入れるっていう感じです。皆さん、想像してみてください。いや、想像しないほうがいいですね。
この作業の時には、いつも「宇宙人にさらわれると体に何か埋め込まれるぞ」っていう話を思い出します。まぁでも、訳のわからない嫌なことばかりする獣医なんて、きっと動物たちにとっては宇宙人みたいなものでしょうけど。
(動物病院係 塩野 正義)