241号(2018年04月)1ページ
猛獣脱出捕獲訓練
3月3日に猛獣が逃げ出したことを想定した捕獲訓練が行われました。この訓練はかなり昔から行われており、毎年この時期に実施しています。皆さんはご覧になったことはありますか?我々飼育員は動物を逃がさないよう、施錠の確認は確実に行うよう徹底しています。猛獣が逃げ出すなんて絶対にあってはならない事ですが、万が一に備えて職員全員で訓練をするのです。
訓練のポイントは①来園者の方々の避難誘導の確認、②緊急対策に必要な捕獲道具の確認、③猛獣脱出防止の為の班ごとの対応の確認の3点です。職員が演じる逃げ出した動物から来園者を遠ざけて、網やゲートで囲います。捕獲班の職員は盾を持って待機、警察の機動隊のイメージです。麻酔班の獣医師たちが車で現場に到着し、隙を見て麻酔銃を撃ち込みます。麻酔が効いて動かなくなったのを確認したら捕獲し、獣舎まで運び込んで終了です。
このような流れで訓練は行われるのですが、この訓練の見どころはなんといっても猛獣役の職員の迫真の演技!日本平動物園の猛獣脱出捕獲訓練は本気でやります。見た目も可愛いマスコットキャラクターみたいな着ぐるみじゃありません(リアルでちょっと怖い)。
ここ数年はずっとチンパンジーが脱出したという想定で訓練をしていて、チンパンジー役に決まった職員は数日前から特訓を始めます。動きを真似するために観察し、木登りの練習をして、皆を驚かせる(笑わせる)ような小ネタを仕込みます。まずは木に登って、フェンス越しに威嚇して、次はバナナ食べながら少し休んで・・・と、麻酔銃を撃たれるまでの台本を考えるのですが、脱出してから撃たれるまでの時間が結構長いので、上手くペース配分をしないとすぐに疲れてしまいます。何をするにもそうですが、メリハリが大事ですね。訓練の様子を傍から見ていると「おぉー暴れてるな、バナナ食べてる笑」くらいにしか思いませんが、着ぐるみを着てマスクを被るとちょっと動いただけで息が上がります。視界も悪いため、普段なら簡単にできる木登りもとても危険で難しく感じます。そう、チンパンジー役は想像以上にと~っても大変なんです。これは実際にやった人しか分かりません(筆者も1度やりましたが、超疲れました)。
さて、今年の訓練はどんな様子だったかというと、、、迫力満点で笑いもありの大盛況でした。本物のチンパンジーさながらにキーキー鳴き声を上げて威嚇!木登りも上手で、たくさん動き回り暴れていました。麻酔班の車が到着して、威嚇と逃走を何度か繰り返し麻酔銃が発射されました。しかし興奮しているチンパンジーにはなかなか麻酔が効かず、もう一発撃つことに(麻酔が効きにくい動物もいるので、本当にこういう事も起こります)。ようやく動きが鈍くなり、寝込んだところで車の窓から棒を出してチンパンジーを突っつきます。完全に反応がなくなったところで盾を持った職員が一斉に集まり、網で包んで獣舎へ運び込みました。マスクを取った職員は汗だくで疲れ切っていましが、皆から「面白かったよ!」「頑張ったね、お疲れ様」と褒められて満足そうな顔をしていました。
皆さんはもし逃げ出した猛獣を見つけても「とりあえず写真撮っておこう」なんて思わず、すぐに安全な場所まで逃げて下さいね。動物たちの身体能力は侮れません、こちらの想像を軽々と超えて思いもよらない事が起きうるのが常です。もちろんそうならないよう、今日も明日も我々の合言葉は「施錠確認OK!」です。
(久保 暁)