でっきぶらし(News Paper)

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244号(2018年10月)3ページ

ゾウの後継者問題で思うこと

 日本平動物園では、ダンボとシャンティの2頭のアジアゾウを永年飼育しています。ダンボは昭和44年の開園時から、シャンティはその1年後の昭和45年からと、長い間この2頭のゾウさんをずっとここで飼っています。当時子供だった市民の皆さまには、自分達が子供のころに見ていたゾウさんを、親から子供、孫へと3代、4代にもわたってここで見ると言う事は、何か感慨深いものがあると思われます。実は、よくよく調べると、2頭の同じゾウさんが、同じ動物園で最初から50年近くも飼育されているケースは、日本の動物園がゾウを飼育する歴史の中でも、他にこのような例は存在しません。ゾウ舎の造りも、昔の雰囲気そのままに残っており、まさに「静岡遺産」のような感じです。平成19年からの再整備計画が終わったら、園内のあちこちの動物舎が新しく建て直され、今となっては2頭のゾウさんとともに、市民の皆さまには何か遠い昔の記憶を呼び起こす特別な空間となっているのではないでしょうか?
 そして、そのゾウについてですが…もう何年も前からダンボは攻撃的で危険なため、飼育係はダンボと同じ空間には入れず、ほぼトラやライオンと同じ様な「猛獣扱い」で飼育しているのが実状です。一方でシャンティはダンボという年上のお姉さんゾウがいて、いつも守られているせいもあってか、性格はダンボに見られるような攻撃的なところは今の所ありません。そのため飼育係が一緒に中に入って体のあちこちの手入れや治療をするという飼育を現在までずっと続けています。
 私がゾウの担当をしてから早いもので26~27年が既に経とうとしています。変な話、ゾウとの付き合いの方が、親兄弟との付き合いよりも長いような感じさえします。まあ、それだけ私もゾウたちも年を重ねてきたという事ですが…。そこで、問題となってくるのが、ゾウの後継者のことです。
 私ははじめ、2頭を子ゾウの頃から世話をしてきた先輩飼育係に、ゾウの飼育管理・調教などを教わってきました。また、全国のゾウ飼育係からも貴重なアドバイス等をもらったりして、ゾウに対する知見を深めてきました。何より自分の中で大きかったのは、20年ほど前に他園のゾウ飼育係数名と一緒に行った海外でのことでした。タイのゾウの村というゾウ使いたちが暮らしている村を訪れた際、以前からずっと気になっていたことをゾウの村の村長さんに聞くことができました。それは、ゾウと接するのに必要なのは「愛情」なのか「力(強制力)」なのか?と尋ねたところ、その質問の答えにうまく合っているかはわかりませんが、と前置きをしたあと、「それらはどちらも必要だが、もっと大切なことがある。それは『勇気』だ」というまさに私にとって目からうろこの答えが返ってきました。思えば、ゾウは本来群れで生活しており、その群れのリーダーは絶えず正しい状況判断力・行動力で群れを守っていかなくてはなりません。ゾウの上に立つということはそういうことなんだ。それまでずっとこのことを考え、頭の中がモヤモヤしていましたが、この件で見事に吹っ切れた感じがしました。

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