でっきぶらし(News Paper)

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246号(2019年02月)6ページ

病院だより 動物園のおくすり事情

 動物園も他の職場と同じように年末に大掃除があり、動物病院も日を決めて普段やらない場所の掃除やカーテンの洗濯などを行いました。特に診療室は、動物の毛やら羽やら血やら土やらが飛んでかなり汚れていたので、同僚の獣医師と半日かけてせっせと掃除しました。しかしそれとは別に、私は年内のうちにここしばらく手をつけていなかった薬品庫の整理をしようと以前から心に決めていました。という訳で今回は、動物のことではなくてちょっとマニアックに動物園の薬のお話をしようと思います。
 動物病院の薬品庫には大きな棚があり、たくさんの薬が保管されています。日本平動物園には150以上のたくさんの種類の動物がいるので、そのぶん使う薬も様々です。鳥にはこれが効く、ネコ科にはこれが効くといったように種類ごとにも違いますし、同じ薬でも体の大きさによっていろいろな力価(薬の成分の量)のものを使います(10mg錠、100mg錠といった具合に)。あとは、人間の病院にはあまりないような薬もたくさんあります。例えば、お腹の中の寄生虫を殺す駆虫薬(くちゅうやく)、ワクチン、吹き矢や麻酔銃で使う麻酔薬、あと珍しいものではお腹の中の毛球を出す薬とかですね。そして、似たような成分の薬でもメーカーによって微妙に違う上にジェネリック医薬品もあるので、薬の量は膨大になります。
 そこで今回の大掃除では、棚の奥に隠れている期限切れの薬やしばらく使っていない時代遅れの薬を廃棄して新しい薬を買い、また高価な薬をジェネリック医薬品に切り替えることにより、膨大な薬の種類を減らして在庫管理をしやすくし、薬剤のコストを下げることが最大の目的です。そのため全ての薬を一度棚から出し、一つ一つ成分や価格や使用期限を見て、取っておくべきか捨てるべきか考えていきました。現在も同じものが売っているのか、今はもっと良い薬があるのか、他のメーカーではいくらなのかなどいろいろ調べていくので、とても一日やそこらでは終わらない作業です。そこで、今日と明日は抗生物質、次回はステロイド剤、その次はビタミン剤といった具合に分類ごとに日を決めて、空いた時間に薬品庫の中で作業をしていきました。作業中は、その筋の人でなければ意味の分からないカタカナ語を念仏のようにブツブツ言っていたと思われます(自分ではわかりませんが)。「よく使うエンロフロキサシンとオルビフロキサシンとレボフロキサシンはどの力価が要るか…」「胃薬はガスターとザンタックが両方たくさんあるけど、ラニチジンは本当に必要なのか…」「最近バンバン使うチエナムは高いから、イミペネムはジェネリックを探してみるか…」「メトクロプラミドはプリンペランとテルペランがあれば…」などといった感じです。薬の名前なんてどれも早口言葉みたいなものばかりです。
 ちなみに、薬を用意するときには必ず体重をもとに計算しますが、猛獣などは危険なため治療のたびに体重をはかるのは難しいです。猛獣は吹き矢や麻酔銃を使って麻酔をかけて、眠っている間に体重をはかることが多いのですが、そもそも体重がわからないと麻酔薬もどのくらい使ったらいいかわかりません。そこで普段から、入院や退院の時、他の動物園から来園した時、獣舎の引越などのために捕獲する時などは、必ず体重をはかって記録しておきます。そうすれば、いざ治療をする際にその体重を利用することができます。あとは、動物の体つきを見て体重がだいたい何キログラムなのか推測することも、獣医師にとっては大事な技術です。そういえば、人間の医療の世界では、優秀な麻酔医はその患者を一目見ただけで体重がわかるとか…(以前テレビドラマで言っていました)。すごいですね!体重を知られたくない人にとっては脅威となる能力です。という訳で、凡人のしがない獣医師である自分は、巡回中に動物をジロジロ見ながら体重を推理して毎日訓練しています。
(塩野 正義)

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