でっきぶらし(News Paper)

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253号(2020年04月)6ページ

病院だより「アムールトラ ナナの一生」(2)

 自分の尿で体が濡れて床ずれができるのを予防するため、キリンやウマで使っている木のチップや馬房に敷く亜麻を試しましたが、最終的にゾウ班に分けてもらった稲ワラで落ち着きました。水は自力で水飲み場に行って飲み、餌の肉も置けば食べていました。衰えとともに段々とそれが難しくなってくると、掃除の時にナナの身体を皆で押して水飲み場の近くまで移動したり、バットに水を入れて顔の前に置いて飲みやすくしたり、肉はトングで口元に差し出しくわえて食べることができるようにするなど様々な介助をしました。ナナはとても協力的でおとなしく、床ずれの治療の際には時々尾を振って人の頭をはたき意思表示することもありましたが、穏やかに寝ていることも多かったです。ポカポカ陽気の日、窓から差し込む日光を一緒に浴びながら「今日は良い天気だね」「フジはこの間ノゾミに積極的だったんだよ」などと点滴をしながらナナに話しかけていました。

 3月1日、休み明けに朝部屋を覗きに行くと、2日前と明らかに違いナナは元気がなく、死期が近いと感じました。掃除等を午前11時からする約束をして行くと、応援職員が3人も来てくれました。5人がかりで身体を持ち上げ、排泄物で汚れたワラを取り除き、お尻を濡れタオルで清拭し、床敷きを整えて寝返りを打たせました。上半身を起こして支えながら口元にバットの水を差しだしましたが、いつものようにペロペロと舌を動かすことはなく口を閉じたままでした。それでも、大好きな鶏肉をあげると4切れを自分で食べてくれたのです。その1時間後にナナは息を引き取りました。老齢動物の介護は切ないこともありますが、動物の生命力の強さに教えられることも多いです。ナナは2週間以上寝たきりだった後に数回立ち上がって皆をびっくりさせたこともありました。ナナ、よく頑張ったね。献身的にナナの介護をしてくれた飼育担当のⅠさんOさん、病院スタッフ、手伝いをしてくれた職員、そしてナナを応援してくれた皆様に心から感謝します。

 隣室にいたフジは横になって休んでいて、ナナが亡くなった時には気づいていませんでしたが、解剖のため大勢でナナを病院に移動し、空いた部屋を見て気が付いたフジはそわそわして鳴いていたそうです。翌朝も寂しそうに鳴いていたフジ。ナナの解剖にはたくさんの飼育員が立ち会って手伝ってくれました。ナナが皆から愛されていたことがよくわかります。解剖をあまり見る機会のない職員にとっては、ナナに最後まで勉強させてもらいました。さて、ナナからこれからの日本平動物園を託すバトンを受け取ったフジ。ペアのメスのノゾミの前ではトゥーシャイシャイボーイなフジですが、病床のナナを隣室から励ましていた心優しい息子です。皆さん、これからも当園のアムールトラをどうぞよろしくお願いします。
(松下 愛)

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