でっきぶらし(News Paper)

一覧へ戻る

« 271号の2ページへ271号の4ページへ »

271号(2023年04月)3ページ

ジュリーとミンピー

オランウータンのオス「ジュリー」が昨年の3月に来園してから、1年が経ちました。ジュリーは1993年に当園で生まれ、3歳のときに横浜の動物園に引っ越して暮らしていました。2021年の9月にジュリーの父親である「ジュン」が亡くなり、メスの「ミンピー」がひとりになってしまったため、新しい繁殖の相手としてジュリーが里帰りしてきたのです。

繁殖の相手とは言っても、2頭は初対面になります。相性が合わず闘争になると、力の強いオスがメスに怪我をさせてしまうことがあります。特にジュリーは人工哺育で育ち、今までに他のオランウータンと同居をしたことがなかったので、慎重に「お見合い」をしてから同居をしていくことになりました。このお見合いについては、ホームページのブログ『オランウータンジュリー日記』に詳しく書いていますので、そちらもぜひご覧ください。

さて、慎重に檻越しのお見合いを続けること約半年、相手が隣の部屋にいても2頭とも落ち着いて過ごせるようになった昨年の9月に、初めて檻越しではなく同じ空間でジュリーとミンピーを同居させてみることになりました。どんな動物でも初めて同居をさせる時は、飼育員はとても緊張します。とくに猛獣や力の強い大型動物の場合、万が一闘争になっても人間が間に入って止めるなんてことはできません。危険な時は2頭を引き離すことができるよう、様々な対策を準備しました。大きな音で驚かせるための爆竹やスターターピストル、水をかけるホース、そして獣医さんには麻酔銃も用意してもらい、厳戒態勢で同居に挑みました。

初めての同居は、万が一闘争になっても2頭を離しやすい室内の部屋で行いました。メスのミンピーを先に出してから、オスのジュリーも同じ空間に出しました。2頭は一瞬見合った後、ジュリーが一直線にミンピーの元へ行き、ミンピーを叩いてしまいました。これはまずいと思いホースで水をかけようとしましたが、ミンピーが隙をついて自力でジュリーから逃げ、ジュリーも後を追いかけることはしなかったので、すぐにジュリーを外に出し、同居は終了。わずか1分ほどの出来事でした。幸いどちらも怪我はしておらず、夕方にはまた隣同士の部屋に帰ってきて、いつも通りの様子でした。

2回目の同居は作戦を変えて、広い屋外放飼場で行うことにしました。広い場所の方がお互いの距離を取りやすく、何かあっても逃げやすいと考えたからです。今回も他の飼育員や獣医に応援に来てもらい、厳戒態勢で挑みました。すると今回は、周りで監視する人達に2頭とも興味津々。お互い距離を取りつつ、かわるがわる飼育員のところへ行っておやつをもらいつつ30分…2頭の接触は無いまま同居終了となりました。

その後も厳戒態勢で月に1回のペースで同居を行いましたが、似たような状況でなかなか進展しません。1回目以降は喧嘩もしていないのでそれはいいのですが、ずっと離れていては同居の意味もありません…もう少しお互いに慣れてほしかったので、同居の頻度を上げて、飼育員はなるべく隠れて見守ることにしました。すると、徐々にですがミンピーがジュリーの方へ近づくようになりました。ジュリーは少し警戒するものの、以前のように攻撃的なそぶりはありません。だんだん近づく距離に見守るこちらもドキドキ…そして2月の初めには、ジュリーの方からそっとミンピーに触り、ミンピーもジュリーのにおいを嗅ぎにいきました。このままゆっくり距離が縮まったら、茶飲み友達くらいにはなれるかも…?なんて思っていたのですが、その3週間後にはいきなり2頭で仲良く遊び始めました。毛布を掛け合ったりとっくみ合いをしたり、腕をパクッと咥えるところもありましたが、痛がる様子も無く甘噛みです。見ている飼育員も笑ってしまうくらい、楽しそうにじゃれ合っていました。結局その日は同居終了まで30分間、ずっと遊び続けていました。

それからも何回か同居を行いましたが毎回2頭で遊ぶ様子が見られています。人工哺育で育ったジュリーが、おとなになってから他のオランウータンと遊べる日が来るなんて…感無量です。最初に叩かれてしまった後、めげずにジュリーにアプローチしてくれたミンピーには本当に感謝しています。今後も仲良く過ごして、ゆくゆくは繁殖に繋がればいいなと思います。皆様もあたたかく見守ってくださいね。

(川合 真梨子)

« 271号の2ページへ271号の4ページへ »

一覧へ戻る

ページの先頭へ