274号(2023年10月)4ページ
動物たちの餌事情
昨年に引き続き金欠の飼料担当です。物価高騰がとどまるところを知りませんね。大変困っております。しかし捨てる神あれば拾う神ありというのか、動物園に協力していただける方々が現れました。今回は感謝を込めてその話をお伝えしようと思います。
まず、コストコホールセールジャパン浜松倉庫店様(以下「コストコ」敬称略)から牛肉の寄付をいただけるようになった話から。すでに新聞やテレビでご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、4月にコストコから「精肉加工時にでる端切れ肉を寄付したい」という旨のお電話をいただきました。地元農家さんなどから野菜の寄付はよくいただきますが、肉の寄付というのは初めてでした。動物たちに与える上で一番気になるのは品質です。寄付の申し出の中には消費期限が過ぎたものなど「人が食べられない物」もあるのが現状です。そのためコストコにも肉の品質、どういった経緯で出る肉なのかなどを詳しく伺い、獣医や肉食獣担当と相談の上で入荷、検品を行いました。人の食用の牛肉のため脂が多く、ホッキョクグマにしか与えられませんでしたが、ロッシーとバニラはともによく食べてくれました。今後も月60kg以上の量を寄付いただけるということで感謝しかありません。コストコも廃棄物を減らせて社会貢献できるということは企業としても良いことだそうで、win-winの関係を築けたかなと思います。
次に由比漁港の未利用魚活用の話です。サクラエビで有名な“しずまえ”由比漁港ですが、他の魚もたくさん水揚げされています。その中で食用として流通しにくい、もしくは獲れすぎて余ってしまう魚を提供いただいています。普段動物園で使っているのは、人の食用として流通している魚です。(そもそも流通していなければ買えませんから。)しかし、動物たちは例えば「小骨が多い」「大きさが小さすぎる(大きすぎる)」など気にしないので、品質(鮮度)が良く、彼らの口のサイズに合ってさえいれば良いのです。というわけで『小骨が多くて食用に向かない魚』や『サイズが半端で売れないアジやサバ』、『その他毒のある魚を除いた雑魚』など、漁港に揚がる季節の魚を低価格で入荷できるようになりました。大きめの魚はホッキョクグマ、アザラシ、ペリカン、ヒゲワシ、ハクトウワシに。中くらいのはペンギン、小さいのはメガドームのトキやアジサシがそれぞれおいしくいただいております。漁港関係者も、捨てちゃうしかなかった魚なので食べてくれた方が嬉しいということで、win-winで地域還元できたかなと思っています。
ほんの一例ではありますが、動物園にご協力いただいた皆様のお話をさせていただきました。飼料費の節約はもちろんのこと、実は園内では(特に栄養学に関心のある職員から)餌の種類が増えたことで、今までより栄養状態が良くなるのでは?という意見もでてきています。特に魚は、駿河湾の恵みを受けたいろいろな種類の旬の魚が入るので、栄養状態がかなり違ってくるのではないかと言われています。栄養については詳しく調べないとわかりませんが、動物たちの一番の楽しみである『ご飯の時間』がメニューが増えたことで彩られて、以前よりご機嫌になってくれたら嬉しいです。特にホッキョクグマは、かなりメニューに地産品が増えたので、不動の『園内餌代が高い動物ランキング1位』の座がだいぶ揺らいできました。
とにもかくにも、多くの方の協力のおかげで今年も何とかやり繰り頑張れそうです。本当にありがとうございます。野生動物の栄養学も日進月歩で栄養補完のためのサプリメントやペレットの新製品も出ていることから、もしも物価が落ち着いて少し余裕ができたらそれらを買ってみて、より動物たちが健康でいられるようにお金を使えたらいいなと思います。以上、金欠の飼料担当でした。
増田 知美