でっきぶらし(News Paper)

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278号(2024年06月)4ページ

日常でみられる、オオアリクイ三者三様

 日本平動物園の飼育員として働き始めて14年が経ち、これまで多くの動物を飼育してきましたが、オオアリクイほど“お行儀が良い”といいますか“飼育員思い”だなと感じる動物はいなかったように思います。たとえば餌。他の動物ですと好き嫌いが多く、餌を選ぶのに苦労したり、十分に食べてくれなかったりして飼育員を悩ませることがありますが、オオアリクイは基本的には毎回残さず食べてくれます(幼い時の竹千代(オス)はなかなか餌を食べてくれず苦労しましたが、今ではちゃんと残さず食べてくれるようになりました)。また、入舎(外の放飼場から寝室へ戻すこと)の時、他の動物では時間になっても(時には夜遅くになっても)寝室に戻らず飼育員を心配させることが多々ありますが、オオアリクイは門(オオアリクイ舎の外の放飼場を半分に仕切る柵があり、柵の中央部分に門があります)を開けたら直ぐに寝室に戻ってきてくれます。入舎の時、オオアリクイたちはだいたい駆け足で戻ってくるので、私も門を開け部屋に戻る時は、追いつかれないように急ぎ足になります(オオアリクイはご存じのとおり、前あしにアリ塚を壊すための大きな爪を持っています。これを武器にして攻撃してくることがあるので、一緒の場所にいるのは結構危険なのです)。ちなみにこの入舎の時は、3頭いるオオアリクイたちの性格の違いが表れる場面でもあります。フジオ(オス)は、入舎の時刻が近づいてくると、門の前でソワソワしだし、あっちへ行ったりこっちへ行ったりするので、離れた隙を見計らって門を開けることが出来るので、私もそこまで急いで部屋に戻る必要はありません。フジオの場合、まっすぐ室内に戻ることもあれば、途中、土のにおいを嗅ぐなどちょっと寄り道をしてくることもあります。フジオの息子の竹千代も入舎の直前は門のあたりを行ったり来たりしますが、門が開いたら一目散に室内に向かってきます。それは駆け足なんてもんじゃなく猛ダッシュなのです。なので私も竹千代の時は全速力を出さなければいけません。ヒナ(メス)はどうなのかというと、オス2頭と違って、入舎の前は門の前からぴたっと動かなくなり、門が開く瞬間を今か今かと待ち構えます。まさに臨戦態勢という感じです。その姿はまるで、開店前の人気店に長い行列を作る熱心なお客様のようです。私もヒナの時は半身となって片腕・片足は部屋の方に向けて門の閂を抜く羽目になります。そんな私とオオアリクイたちの追いかけっこは来園者の皆さんにはどう映っているのでしょうか?飼育員がオオアリクイから必死で逃げているようで滑稽に見えるかもしれませんが、こちらは至って真剣なので、そこのところご理解いただけますと幸いです。 
             
(山本)

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