279号(2024年09月)5ページ
うつろいゆくもの
皆さんは近頃生活に大きな変化などはありましたか?私は今年の春から、5年ぶりに動物園で働いています。この5年間は農業に関する部署で、いわゆる行政事務をしていました。元々は動物園で長いこと飼育員をしていたとはいえ、5年間のデスクワーク生活から身体を使う現場の仕事に戻ったときは、そのギャップに慣れるまでなかなか大変でした。いや、慣れたというか、今でも何とかギリギリやっているという感じでしょうか?5年という年月は体感ではあっという間でも、思いの他、色々なものが変わっていたのでした。自分の体も、動物園も。
久々の動物園では、昔飼育したことのある動物の担当となりました。は虫類とレッサーパンダです。いくらか作業内容が変わっているところもあるけれど概ね昔と同じだな~余裕余裕と思っていたら、全然違いました。
まずレッサーパンダの餌となる竹について。竹は飼育員が毎日周囲の竹林から調達しています。新芽やアクの残った若い竹はあまり食べないので、よく食べそうなものを選んで採ってくるのですが、久々に竹林に入ったら想像以上に竹が少なくなっていました。レッサーパンダはたくさん餌を食べるので、竹の生える量よりも消費量の方が多いのかもしれません。加えて下草が繁茂して思うように歩けない!山林は人が管理しないとすぐに荒れてしまうということがよく分かりました。また自身の体力が低下していることもあり、竹を採ってくるだけで、かなり疲労してしまいます。昔は体を動かして気持が良いくらいに思っていたのに、正直こんなに大変だったっけ?という感じです。
次は、は虫類館の作業について。は虫類館では餌を与える動物が曜日によって違います。火・木・土はリクガメ、水・金・日は水棲ガメといった具合です。小さな生き物たちですし、種類ごとに与える餌の内容も違うので、なかなか細かい作業です。この餌の違いを暗記してスムーズに準備ができるようになるまで、だいぶ時間がかかりました。昔はこの作業を何年間もやっていたというのに、別の部署にいた5年間で完全に忘れてしまっていたのです。まるで水を目一杯吸い込んだスポンジのように、新しいことを学ぶには既にある記憶や情報を捨てない限り吸収できないような、自分の頭の容量の限界を感じてしまいました。
最後に動物について、5年の間に自分の知っている動物たちも大分様子が変わったように感じます。動物たちにとっての5年は、人間の5年とは大きく異なります。もちろん亡くなってしまった動物も多いですし、別の動物園へ移動した動物や当時は小さな子どもだったのが立派な親となっていたり変化は様々です。中でもレッサーパンダのスミレについては昔の姿が印象深かったため、その変化はなかなか感慨深いものがありました。スミレは今でもふかふかの良い毛並ですが、その中に白い毛(白髪のようなもの)が増えてきて、動きも昔と比べると大分ゆっくりになりました。ぱっと見た感じは昔とそう変わらなくとも、確実に年老いているのです。性格もずいぶんと丸くなったように思います。当時は色々と手を焼いた記憶がありますが、今の姿を見ているとそれらのエピソードも笑い話として、より一層思い入れが強くなります。
つまり何が言いたいのかというと、皆さんも自身の老いを自覚して・・・ではなく、動物園は不変的なようでいて実は常に変化していくものです。今いる動物たちの姿・様子をぜひ目に焼き付けて、皆さんのいい思い出としていただければ幸いです。
(久保)