でっきぶらし(News Paper)

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136号(2000年07月)2ページ

動物慰霊祭

 我が日本平動物園は静岡の中でも有名な桜の名所である。春になると、薄紅色の桜の花がそれは見事に咲き零れ、その美しい情景に誰もが心を奪われる。 その桜並木の中に、ひときわ大きく、古い桜の木がある。池のほとりにそびえ立つその桜の木の傍らに、ある文字が刻まれた石碑がひっそりと立っている。
『動物達よ  安らかに』
その石碑は昭和44年に開園してから今日まで、園内で死亡した動物達の慰霊塔なのである。
毎年、9月23日の秋分の日にこの慰霊塔の前で慰霊祭が行われる。動物飼育に直接携わっている飼育課の職員はもちろん、他の動物園職員、動物園友の会員、希望する一般入園者が参列して行われる。一分間の黙祷、そして園長、友の会長による亡き動物達への送る言葉に続き、この一年間に死亡した動物達の名前が呼び上げられる。最後に参列者全員が菊の花を献花するのである。 動物園の動物達は野生のそれとは違い、外敵や自然の猛威に恐れることなく、安全な環境で飼育をされている。しかし、いくら安全な環境の中でも死は訪れる。そのほとんどは寿命を全うし静かな死を迎えるが、時には病気や事故といった不幸な死因も少なくない。しかし、死に行く動物園の動物達にとって、野生動物達と決定的に違うことがある。それは、その死を遠ざけようと、必死に介護に努める多くの人間達が存在することである。

 飼育係にとって、一日の内、本当の家族と過ごす時間よりも、担当動物たちと接する時間の方がはるかに長く、当然お互いの間には深い絆が生まれるのである。動物達に深い愛情を持って接している飼育係にとって、自分が携わった動物の死は、それがどんなものであっても、つらく、悲しいものである。私が飼育してきた動物も、何頭かはこの慰霊塔の中で眠っている。私は毎年、慰霊祭の日が来るたびに彼らのことを思い出し、胸を痛めるのである。開園以来32年間、私はこの現実と向き合ってきた。そして今年・・・・・。
 今年の慰霊祭は私にとって特別なものであった。今年ほどつらく、胸がつぶれるような苦しい慰霊祭は後にも先にもないであろう・・・・・。  私は二本の菊の花を献花した。黄色い菊の花は3月5日に死亡したタイコに・・・。そしてもう一本の白い菊は、21年間を共に過ごし、7月16日にこの世を去ったゴロンに捧げた・・・。

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