51号(1986年05月)5ページ
動物園の一年(後編)◎十二月、類人猿騒動、ブラッザグェノンの負傷他
十一月の類人猿のもろもろの出来事は、ほんの予兆にしか過ぎませんでした。
おかしい、おかしいと思っていたベリーの食欲不振、行動の鈍化、体温の下降は、どうやら貧血にありそうでした。あまりにも状態が思わしくないので獣医に精密検査を訴えて血液検査をして貰ったところ、貧血を表わす数値がはっきり出ていたというのです。それは、今動いているのが不思議なぐらいだとのことでした。急いで、すぐ様、鉄剤シロップ(造血剤)を与え始めたのはいうまでもありません。
オランウータンのほうが何とか落ち着いてくると、今度はゴリラのトトの番です。二十一日の夕方、いつものように入舎させ餌を与えても見向きもせず、それどころか体をガタガタ震わせていたそうです。
担当者が驚いて検温すると、すごい熱。急いで解熱剤を与え、安静にして、夜の十時過ぎにようやく微熱程度に収まりました。翌日には鼻汁は出していたものの、ふだんと変わりない表情を見せ、まずはひと安心でした。
九十五kgとがっちりした体ができあがっていたので、風邪をひいてもこの程度で済んだのでしょうが、それにしても、冬場のちょっとした気候の異変が、成獣の体調をも狂わせるのかと、大いに身を引きしめられました。
この隣のチンパンジーは、つまらぬ?ことでしょっちゅうトラブルを起こしています。メスのパンジーが、発情がきても、雄のポコに交尾をさせないことが主な原因です。夕方、入室させようと思っても、ままならぬ事態に発展していってしまうのです。特に代番者は、担当者のようにはいうことを聞いてくれないので、より悩ませられます。全く「いい加減にしろ」といいたくなるぐらいです。
七年も続けて子をなしているのだから、さぞや仲のよい夫婦だろう、との思いに首をかしげさせてくれるのはブラッザグェノン。昨年より度々トラブルを起こすようになり、今年も小さいながらも引き起こしました。
右手をぶらぶらさせているので、不思議に思って見れば、がぶりとやられていたのです。ふだんは、母子夫婦六頭全く仲のよい群れであるだけに、トラブルの原因はさっぱりつかめません。せいぜい、仲よくしろよというのが精一杯です。
他、この月は、ハイイロキツネザルの雄が死亡。人工育雛で大きくなったコンドルがブリーディングローンで甲府動物園へ放出、出産はバーバリシープだけでした。(数日後死亡)