でっきぶらし(News Paper)

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51号(1986年05月)21ページ

ラクダの出産と人工哺育

秋元錠一
本題に入る前に、ラクダについて少し説明したいと思います。ラクダといえばすぐ砂漠を連想するように、砂漠にはラクダはかかせない重要な動物と言えます。
ヒトコブラクダは西アジアからアラビア、アフリカにかけてすんでいます。荷物の運搬等にも大きく役だち、肉や乳はもちろんの事、糞も燃料として利用されています。偶蹄目に属し、四肢には指が一対ずつあり、指骨はほぼ水平で上端だけを平爪が被い、下は砂漠の中を平気で歩けるように厚い肉質のふとんのようになっています。ヒトコブラクダは、フタコブラクダに比べ、少し小さく、体毛も短くてやわらかいです。コブの中身は水ではなく脂肪で、食料不足の時のエネルギー源になっており、暑い陽ざしをさえぎる断熱の役目もしています。耳にも毛がはえており、まつ毛が長い事、鼻孔が開閉できる事、これらは、砂嵐をふせぐのに役立っています。視覚と嗅覚もするどいです。又性格はおとなしそうだが、なかなか荒く、私も時々けられそうになったりします。
繁殖は一産一子、妊娠期間は当園の場合、三百六十日ぐらい、三年ぐらいで性成熟し寿命は二十五年ぐらいです。私がラクダを担当して七年になりますが、前任者より引き継いだ時妊娠の可能性があると言われ、大いに期待しました。言われて見ればなるほど乳房が大きく見える。私も出産を楽しみに乳房、腹部の変化を毎日観察していました。ところがそれ以降あまり変化は見られず、そのうち乳房も小さくなってしまい、結局のところ「想像妊娠」に終わってしまいした。
一九七九年の中頃より交尾が見られなくなり、腹部にも変化が見られるようになりましたが、今回も「想像妊娠」じゃないかと思い、 の注意をしていました。十二月半ば乳首の先に仁丹程の白いかたまりの付着が見られ、前回のような想像妊娠ではないと確信し、観察の強化に努めました。翌年一月腹部も大きく張り、出産準備に忙しい毎日でした。二月中旬頃には、乳房もはちきれそうになり、歩くたびに乳がシューシューとはしり出るようになりました。すわるとそこに乳の小さなたまり場までできていました。
三月十八日午後三時二十分頃出産の柱?が見え始め、五時四十分に無事雌を出産しました。ところが部屋が狭いのと初産であった為か非常に興奮し、子を唐ンつけてしまいました。すぐに親から離し、病院に運んで手当てを施しましたが、すでに手遅れでした。非常に残念でなりませんでした。この時期は、他の動物の出産も多々あり、出産の報告を聞くたびに涙がでてきてなりませんでした。
二度目の出産があったのは、それから四年後の一九八四年五月二十九日でした。前日の夕方、食欲がなく、そわそわと落着きもなかったのでその旨獣医に報告し、翌朝早目に出勤しました。すると部屋の片隅に子がちょこんとすわっておりました。今度は私の方が興奮し、早速飼育課長、獣医に電話連絡しました。さて、どうするか―。親から離すか、それともそのまま親にまかせるか、打合わせの結果、今回親の面倒見が良さそうなので暫く様子を見ることにしました。ところが、子はなかなか起立せず、授乳の確認もない為翌日再び親から離すことにしました。
子は弱く、自分で立ちあがる事が無理な為、介添で起立させたり、座らせたりの訓練をし始めました。更にまだ授乳をしていないので、三人がかりで親の乳首を子の口に入れて授乳をさせてみました。最初、親はとまどった様子でしたが、案外おとなしく授乳させました。これなら肢がしっかりすれば親と一緒にさせておいても大丈夫だろうと判断し、一安心しました。
一人で立ちあがるようになったのは、生後五日目ぐらいでした。まだぎこちなく、座ることはもちろんまだできません。授乳の度に介添です。十日目ぐらいからだいぶ四肢もしっかりし自分で歩くようになりました。授乳の時には傍らで見守っているだけにし、手を出さず、子に自分で授乳させてみました。親もじっとおとなしく飲ませてくれました。
だが、安心は早すぎました。初めはおとなしく飲ませていますが、長く吸っていると親は尻を振ってしまい、子がよろけてしまいました。急いで子を抱きかかえようとしましたが、子の倒れる方が早く、その上に親がのってしまいました。又、失敗です。それから一週間後子は死亡。面倒見が良くなった母親にある程度まかせたのが失敗でした。
三度目の出産は、今年五月十日でした。三度目の為か出産は軽く、午前十一時十五分に始まり、十二時三十分に出産しました。前回二度の子の体毛は乳白色でしたが、今度の子は真黒でした。今度は、前回二度の教訓を生かし、出産と同時に親から離し、人工哺育に切り換えました。立ちあがるまで一日かかり、まだ座れない為すぐに横倒しになってしまいました。それでも二日目あたりから足腰もかなりしっかりしてきました。
人工哺育にした為、ミルクを与えなければなりません。初めてなので要領がわからず、富士サファリより資料を送ってもらい、参考にしながら市販のミルクを一日四回計二八〇〇cc与えてみました。その後量もふやしてゆき、現在四五〇〇ccを三回に分けて飲ませております。一週間に一度体側を行い、順調に成育しているようです。
一時期便秘で哺乳量が少しおちたことがありましたが、整腸剤等を飲ませて治りました。離乳食(人参、甘藷、草食獣ペレットをつぶしたもの、フスマ)も最初のころに比べ倍近く採食しています。反芻も三十九日より始め、糞も小豆大となり、あとは、親との同居が問題です。

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