43号(1985年01月)5ページ
良母愚母 第三回(猛獣編)【ピューマ(出産は命がけを示した。後の現
開園以来の動物だったオスのキングも、昨年の八月に他界。その後、若いピューマのペアに代わり、昔日の面影は消えてしまっています。
ピューマは、現在の動物園で有り余っている動物のひとつです。当園においてもオスとの別居、避妊手術(ホルモン剤を首の皮下に埋める)といった冷遇を受けた最初の動物でした。そんなピューマが、かつて出産は夢であったと言えば驚かれるでしょうか。
オスのキングは先程も述べた通り、開園以来の個体でした。が、メスは二度入れ替わっています。その二度とも、原因は出産にありました。
出産は命がけと言われますが、ピューマのメスは文字通りにそれを悪い形で示し、この世を去ってゆきました。「子がうまれたようだけれど動かないなあ。死んでいるようだな。」と言っているうちに、元気そうだったメスまでポックリ!!
お腹の中で赤ちゃんが死亡。それがすんなりでてしまえば良かったのでしょうが、そのまま体内に残って腐乱して、次第に毒が体の中をまわり、遂には母をも死に至らしめてしまったのです。さすがに猛獣と言うか、最後までその苦しそうな素振りを見せることはありませんでした。それが余計に、命のあっけなさと子をうむ厳しさや哀れさを誘いました。
三頭目のメスを迎えて、ようやく出産の夢はかないました。若いメスだったので、おそらく当園で初めて出産を経験したのだろうと思われましたが、落ちついたもので飼育係に気を遣わせるようなことは、一度もありませんでした。
ここまでなら、新たに良母誕生!!と素直に喜んでいられるのですが、世の中何事もうまくゆきません。子の貰い手が全くなかったのです。他園でも同じ状況におかれているところがあちこちにあると聞きました。
結局、うませられたのは三度六頭。貰い手がない故に、ピューマに悲哀を舐めさせることになりました。良母の力発揮など夢の又夢、発情がきてもオスと別居させるしかありませんでした。当時の担当者も、その辺は辛かったのではと思います。
これらの経過が、避妊手術につながってゆきました。今いる若いペアも、発情がくると、どのような処遇を受けるのやら、心許無い限りです。